宗教虐待で心を病んだ兄が親から絶縁される残酷 社会的に孤立させるエホバの証人の「排斥」

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布教活動を強いられていた兄は学校の部活動にも入れず、友達と遊ぶ時間も持てぬまま、エホバの外の世界では人間関係を築く機会をほとんど持てなかった。ついに兄は家に引きこもり、母や香さんに暴力をふるうようになる。

両親は「兄にサタン(悪魔)が入ってしまったんだ。サタンが集会に行かないように妨害している。絶対に負けてはだめだ」と、ますます兄に集会に行くよう強要した。兄の家庭内暴力は日に日にエスカレートし、ついに精神科病院に入院することになった。

「会衆のトップである長老を務めていた父親にとって、自分の家は模範家族でなければなりませんでした。兄が集会を何度も休んでいるのは、長老である父にとって具合の悪いことだったのです。だから父は兄を隠そうと、精神科病院に入院させたのです」

進学も、出産も諦めた

一方、両親の期待は妹の香さんに向かった。「兄のようにならないように」と、香さんは親の願いを一身に負うことになった。

香さんは高校時代、月90時間の布教活動をこなしきった。兄のことで落胆していた両親を少しでも笑顔にしたいという思いがあったからだ。

通っていた高校の建築科は課題が多かったが、徹夜してでも布教活動と両立させた。優秀な成績で建築系の資格を取得した香さんは、担任教師から「どこの大学でも推薦する」と太鼓判を押してもらった。香さんは建築系大学への進学を考えたが、その夢はあえなく潰える。

エホバでは大学進学を認めてもらえない2世が多い。進学より、布教活動を最優先すべしと教えられているからだ。娘の大学進学を認めれば、長老である父親の立つ瀬がなくなる。香さんは進学を諦めざるをえなかった。

「担任の教師は『大学に行かないのはもったいない』と親身になってくれたのですが、理由が宗教であるとは言えませんでした。『もう勉強はしたくないから』『やる気がないから』と、うそをつくしかなかった。そう言いながら、心の中では泣いていました」

高校卒業後は家族や組織の期待に応えようと、熱心に布教活動を続けた。父からは布教活動を優先するため「子どもは産むな」と言われ続け、出産も諦めた。

「人生を狂わされた。もう取り戻すことはできません」

親からの愛情を求める兄

精神疾患を患った兄は高校を卒業すると、実家を出ていた。たが、仕事も住む場所も長くは続かず、精神不安定な状態で複数の女性と交際を繰り返した。一時期結婚していた女性には暴力をふるっていたという。「昔は動物を愛でるような優しい兄だったのに」と香さんは言葉を詰まらせる。

ただ、兄はエホバから距離を置いても、自分から脱会しようとはしなかった。脱会すれば両親に会えなくなるからだ。離れて暮らしていても、両親の好きなお酒や和菓子を贈り、旅行した際にはお土産を片手に実家に立ち寄った。

「あんな育てられ方をしたのに、両親のことが好きなんです。ずっと愛情を求めていました。贈り物も、その表れだったのだと思います」

しかし、3年前に女性関係を理由に組織から排斥されて以降、両親は兄との交流一切を断ち切ってしまう。

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