運動が脳を鍛え、うつ退け、集中力上げるカラクリ 『運動脳』著者アンデシュ・ハンセン氏が明かす

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――今、治療をしている患者というより、もっと大勢の「ちょっとストレスが溜まっている」とか「ちょっと仕事で集中力が出ない」とか、そういう方に向けてのメッセージとしてとらえたほうがいいということですね。

はい。メンタルヘルスのための運動の役割は、ストレスに対する耐性、不安に対する耐性、うつ病に対する耐性を高めることだと考えています。運動したほうがストレスに強くなるし、ストレスにうまく対処できるようになります。

アンデシュ・ハンセン
アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen)/精神科医。スウェーデン・ストックホルム出身。カロリンスカ研究所(カロリンスカ医科大学)にて医学を、ストックホルム商科大学にて企業経営を修めた。現在は上級医師として病院に勤務するかたわら、多数の記事の執筆を行っている

――なるほど。それだけでもすごいですが、それ以外の効果もあるんですよね。

はい。まず運動は認知機能を向上させます。また、運動は記憶力を高め、創造力を高め、注意力を高め、集中力を高めます。そして、スウェーデンの徴兵対象者に関する研究※によると、運動は知能にも多少の影響があるようです。

付け加えると、運動は睡眠を改善します。運動をするとより早く眠りにつき、より深い眠りにつくことができます。スウェーデンでは多くの人が睡眠問題を抱えています。彼らはみな(睡眠)薬を求めてクリニックに来ますが、私が最初にアドバイスするのは「昔ながらの目覚まし時計を買うこと」と、「寝る前に携帯電話をチェックしないこと」、そして「運動すること」です。ほとんどの人は、「思っていたよりもそれらをやり遂げることが難しくなかった」と言い、よく眠れるようになりました。

※スウェーデンでは男性に対して徴兵制を実施(女性は任意)。その際に行う身体・知能検査などのデータを基にさまざまな調査・研究を行っている。

運動すると短期的だが脳に届く酸素や栄養が増える

――運動するとなぜこうした効果が得られるのでしょう。血流ですか?

それもあります。22年前、私が医学部に通っていた頃は、脳への血流は常に一定と教わりました。しかし、実際にはそうではなく、脳は体を動かしたほうがより多く、具体的には座っているときよりも早歩きをしたり走ったりしたときのほうが約20%多く血液を受け取れることがわかっています。血流が増えるということは、脳に届く酸素や栄養が増えるということを意味します。

ただし、これは短期的な効果で、運動後1~2時間程度しか維持されません。

――長期的な効果はどうでしょうか。

脳への長期的な影響を与える1つにBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質があります。これは脳が作り出すタンパク質で、脳細胞の新生や記憶力、全般的な健康など、脳のさまざまな働きを促進する作用があります。そして、BDNFは運動をすることでよりたくさん作られます。BDNFができるには時間がかかるため、さまざまな効果(たとえば新しい脳細胞が形成されるなど)を得るには、運動を数カ月にわたって定期的に行うことが必要です。

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