「認知症ビジネス」騙されないために知るべき事 「腸内細菌」が認知症予防のカギとなる可能性

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ただし、ここで示されたのは、あくまで「関連性」であり、腸内細菌と認知機能との間に「何か」が存在する可能性があります。例えば、特定の細菌を持つ人は、特定の栄養素を摂っている傾向があり、実は細菌の働きではなく、その特定の栄養素こそが認知症予防のカギとなっている、といった可能性です。

「関連性」は「因果関係」を示すものではない

この研究では、幸い比較的大きなデータを取り扱ったことにより、年齢、背景となる教育レベルや喫煙状況、服薬状況などの偏りについては調整が行われています。しかし、細かな栄養素の違いまで追えているわけではありません。

「関連性」は「因果関係」を示すものではないということの確認が改めて必要なところです。なぜなら「関連性」を根拠に「因果関係」を示そうとして、例えば特定の細菌を腸内に移植するような介入試験を行ってもうまくいかなかった、などということはまったく珍しくないからです。

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また、仮に因果関係が本当にあったとしても、はたしてどの細菌がどのぐらい存在すれば、認知機能に好影響を及ぼすのかもわかっていません。仮に細菌の種類の広がりのほうが大切だとしたら、特定の細菌を投与することはかえって悪影響になる可能性もあります。

こういったことから、「関連性」が報告されたからといって、腸内細菌を売りにした商品に手を伸ばすことは、「つかまされるだけ」「お金を払わされるだけ」の結果が待ち受けている可能性が高いと考えられます。認知症のような、多くの人にとって身近な不安には、根拠のないビジネスが起こりやすいので注意しなくてはいけません。しかし、腸内細菌と人間の脳との間にもしコミュニケーションがあるのだとしたら……。それは、夢の広がる話だとは思いませんか。

山田 悠史 米国老年医学・内科専門医

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やまだ ゆうじ / Yuji Yamada

慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。現在は、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事する。フジテレビ『FNN Live News α』のコメンテーター、 WEBマガジン『ミモレ』やニュースメディア『NewsPicks』の連載の他、コロナワクチンの正しい知識の普及を行う一般社団法人コロワくんサポーターズの代表理事、カンボジアではNPO法人APSARAの常務理事として活動。著書に『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(講談社刊)、『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)がある。Twitter:@YujiY0402

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