25年間「英語辞典"一筋"」だった彼の驚きの現在 なぜ50代にして「キン肉マン図鑑」を作ったのか

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例えば、英和辞典の場合は一般向け、中学生向けなど、読者対象に沿ったデータベースをつくり、そこから収録単語を採録していくのですが、たいていは分量がオーバーするので、ページ数などに合わせて行数調整をしていきます。

そのときの個人的な気分やノリみたいなもので、あるカテゴリーだけ増やしたり減らしたりするのは、プロの図鑑・辞典編集者としてはダメなんです。例えば、英語の辞典ならAからZまで、最初から最後のページまで同じ基準に則って、情報量を均しながら最終的なバランスを整えていくんですね」

生物図鑑を目指したという『超人』では、変身体が多いキャラクターは無名キャラでも、等しくすべての変身体を載せる方針に。作中では1回しか出てこないキャラクターも主役のキン肉マンと同等の精密さでイラスト化した。

また、「技」は本職のプロレスライターなども起用しつつ、体育の実技教科書を参考に展開図を掲載することで、技の動きがわかりやすく伝わる工夫も施している。

「この手のコラボ企画はコアなファンが熱狂してくれることで、より広い層の方も興味を持ってもらえる。なので、まずはファンの心に届くもの、喜んでもらえることが最も大切なんです。自分が読者だったらうれしい要素を、なるべく盛り込むようにしています。『スター・ウォーズ』や『キン肉マン』は私自身が読者のペルソナですが、やっぱり想像しながらの作業なので、実際に制作しているときは発売後の反応がすごく怖いです」

「超人」図鑑を発売した際、SNSで「『キン肉マン』ファンはうらやましい」といった内容のコメントを見たことがきっかけで、『学研の図鑑 スーパー戦隊』も2021年に刊行した。

「本当は『スーパー戦隊』は詳しくないんですが、自分の“好き”だけだと編集者として幅が広がらないので、技術的な挑戦の意味で企画しました。いちから『スーパー戦隊』シリーズを観ていったんですが、本当に大変でしたね。ファンなら絶対に好きであろう萌えポイントなどを探りながらのデータ集めだったので」

「管理職になっても本づくりにしがみついた」

「辞書も図鑑もデータ集めが一丁目一番地で、実際に自分で原作を当たってデータを集める過程を経ないと、分類の仕方なども見えてこないんです。『技』の図鑑は丸2年の制作期間のうち半年はデータベースづくりにかかっています。最初に原作から拾っていくときは、単純に技名だけで分類しがちなんですが、改めて原作で流れなどを確認すると、『この技はこっちに入るな』とか、『こういう分類の仕方もできるな』とか、頭の中が整理されていくんです」

素人からすると外注したり、AIにお願いしたくなるような労働集約的な作業に思えるが、人任せにしても確認作業で二度手間になるだけらしい。往々にしてクリエーティビティーとは、一見すれば地味で単純な作業を積み上げた先に宿るものである。

次ページ試練続きだったキャリア前半を経て…
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