「ファミリア」が描く"日本で生きる移民"の現実 成島出監督に作品制作の経緯や背景を聞いた
そのときは「どっちなんだよ!」と泣きわめくしかありません。その「どうすればいいのか?」ということがすべての問題であって、その問いを解決するのに、右か左かは実は関係がない。
なので、現実社会でももう少しみんながフラットに意識を持てばいいのにと思います。
ところが、SNSを見ていても、右左については敏感な割に、肝心なことは忘れてしまう。ウクライナ紛争にしても、ロシアによる侵攻が始まった頃は意識が向いていたように思いますが、今、街の居酒屋に行っても若者たちは戦争の話はしていないですよね。
自分たちの曽祖父の世代が戦争で亡くなっていることも忘れているか、そもそも知らない子もいるのかもしれません。日本人は、過去の政治家の不祥事などについても比較的寛容で、忘れやすい傾向にありますが、そこはもう少し関心を持ち続けてほしいという思いがあります。
「無知」はおそろしい
――SNSでは「愛国心」=右派という論調も見かけます。
本質を確かめずに踊らされてしまう怖さを感じています。役所広司さんが『聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実』(2011年)で演じた主人公の山本五十六は、ハーバード大学に留学をし、アメリカの強さを知っていました。
だから、「こんな国と戦争しても絶対に勝てない」ということを強く主張していたのです。日本に対する愛国心を持ちつつも、冷静な視点で物事を判断し、「無知」とは逆の「知性」を持ち合わせていました。僕はあの映画で「無知がどれほど恐ろしいか」ということを描きたかったのです。
一方で、今回の映画は自分の命を懸けて、息子とその妻と触れ合うことによって、無知だった誠治が変わっていきます。主演俳優は同じ役所さんですが、今回の物語は「知っていく」物語なのです。
ヘイトスピーチにしてもやはり、「無知」が引き起こしていると思います。一緒にいれば仲良くなれるのに、そういう機会もないし、他国の人たちを学ぼうとするきっかけも、彼らの存在に想像を働かせようとするきっかけもない。
そういう状況が積み重なってヘイトにつながっているような気がしてなりません。そういうこともあって、他国の人たちと触れ合い「知っていく」ことがこの映画の重要な部分だと思っています。
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