「ファミリア」が描く"日本で生きる移民"の現実 成島出監督に作品制作の経緯や背景を聞いた

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「差別を受けているけれども、俺らは諦めない」というニュアンスの歌がありますが、それは彼らが経験してきたことに基づく実感なのです。ただ、実際の彼らは、そういうことを感じさせない、明るさがありました。そのパワーがいいと思って出演してもらいました。

――劇中には子守歌やラップ以外にもブラジル人たちが情熱的に踊るダンスが登場します。社会的な題材を扱った映画ですが、やはり、エンターテインメントとしての要素は意識していたのでしょうか。

たしかに、この物語は、格差や世界の紛争、在日外国人の置かれている労働環境などシリアスなテーマを扱っていますが、そこだけをクローズアップするのであれば、論文を書けばいいわけですよね。

やはり、どうしたら映画として成立するか、ということを考えなくてはなりません。そのうえで肉体的な表現は欠かせません。視覚的な躍動感を与えることが必要なんです。そして、その意味において、子守歌を歌うシーンやラップをするシーン、団地に住むブラジル人たちが踊るシーンが重要なのです。

また、誠治は陶器職人ですが、窯で陶器を作るシーンもただ器を焼くだけではなく、「炎をどう捉えるか」ということも意識しました。

やはりそうした文字情報ではない、映画でしか描けないシーンをどのようにして魅せるかということに注力したいという思いがあります。

ファミリア
成島監督(写真:筆者撮影)

「右か」「左か」ではない

――映画の後半部分では学とナディアがアルジェリアに戻り、テロリストの人質となり、誠治が身代金をめぐって政府の関係者とやり取りするシーンもあります。「国家」と「個人」を描くにあたって意識をしたことはありますか。

国家を論じるとき、どうしても「右か左か」という話をしがちだと思うのですが、そんなことよりも目の前にある「ひどい状態」をどうやって解決したらよいかについて考えるべきですよね。

この物語にあるように、自国民が海外で人質に取られた場合、国家は「人質の生命が第一です」ということと「(相手の要求に屈することになるので)絶対に身代金は払えない」という矛盾した正論を突きつけてきます。

そこに挟まれた人質の家族、つまり「個人」はどうすればよいのか――。

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