眼科医が警鐘、スマホ依存者「眼球変形」のリスク 多くの小学生が眼軸長伸びる「軸性近視」を発症

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もともとはピンポン玉のように丸かった眼球は、軸性近視が進むごとに、どんどん細長くなっていきます。近視は、進行の程度により、「軽度近視」「中等度近視」「強度近視」に分けられますが、最も程度がひどい強度近視になる頃には、ラグビーボールのような形状になってしまいます。
こうなると、引き伸ばされた眼底に負担がかかり、さまざまな病気や病態を生じます。

例えば、眼球後方の一部がポコッと突起状に飛び出す「後部ぶどう腫」。
眼球が伸びすぎて、引っ張られた網膜が裂けてしまう「網膜分離症」。視力の中心である黄斑部に障害が出る「近視性黄斑症」や「黄斑萎縮」。眼から脳へと映像信号を送る視神経が障害される「視神経症」など。このように、軸性近視の進行の結果、さまざまな異常が生じた状態が「病的近視」です。

病的近視の中でも、特に怖いのが、網膜(黄斑部)や眼から脳へと映像信号を送る視神経がダメージを受けることです。ここが障害されると、視力の回復は困難で、最終的には失明に至るからです。

また、近視の進行の結果、「緑内障」を発症しやすくなりますが、こちらも失明に繋がる病気です。近業を長期間続けることで、こうした障害・病気が生じる可能性が高まります。

日本の小学生の多くが「軸性近視」を発症している

先述のように、日本人の眼軸長の平均は、成人では24ミリ前後になるのが正常な発達です。1歳では20ミリ、6歳で22ミリ前後が平均です。ところが、今の子どもたちの多くは、成人するだいぶ前、小中学生の段階で、眼軸長が24ミリを超えている──つまり、「軸性近視」を発症してしまっていることが明らかになりました。

2020年度に文部科学省が行った「児童生徒の近視実態調査」では、なんと小学6年生の眼軸長の平均は、男子が24.2ミリ、女子が23.75ミリ、中学3年生では男子が24.61ミリ、女子が24.1ミリという調査結果が出ています。これは、早い段階で軸性近視を発症している、つまり軸性近視が低年齢化しているということです。

中3で24ミリ超の眼軸長だと、近視の程度としては、おそらく中等度だと考えられますが、成長して大人になる頃には、まず間違いなく強度近視になります。小6で24ミリ超ならば、事態はさらに深刻です。

近視の急増の原因は「スマホによる影響が大きい」という見解は、世界の眼科医の共通認識となってきています。たしかに、近視とスマホの因果関係に疑問を呈する眼科医もいます。しかし彼らが求める「高いレベル」のエビデンスが出揃うのを待っていたら、私たちは後戻りできない大切な時間を無駄にしてしまいかねません。今すぐにでも、対策を講じる必要性は高いと言えます。

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先述したように、眼科医の共通認識にもとづいて、国を挙げて近視対策に取り組んでいるところもあります。例えば、デジタルデバイスのスクリーンタイムを制限するルールを設けたり、スクリーンタイムを管理するアプリを開発したり。最も進んだ対策としては、眼とモノとの距離と近業継続時間を最適化できるデバイスが開発されたりしています。

また、近視予防に効果がある戸外活動を積極的に増やすという取り組みも行われています。これは、波長が360~400ナノメートルの「バイオレットライト」を眼内に取り込むことで、近視抑制に効果があるという研究結果が根拠となっています。

さらに、近視が進んでしまった場合の進行抑制法として「オルソケラトロジー(角膜矯正療法)」や「多焦点ソフトコンタクトレンズ」のほか、従来から効果が指摘されていた「低濃度アトロピン点眼薬」などの研究も、近年進んでいます。

もともと近視の有病率が高い日本では、近視に関する先端的な研究が行われてきました。例えば、さきほどの「オルソケラトロジー」+「低濃度アトロピン点眼薬」の近視抑制効果に関する日本の研究は、世界でもトップクラス。しかし残念なことは、こうした研究結果が教育現場や医療現場での具体的な対策に反映されていないところです。

こうした社会的・医療的な取り組みが大切なのはもちろんですが、私たち一人ひとりの近視進行抑制のための意識改革も重要です。

川本 晃司 眼科専門医

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かわもと こうじ / Kouji Kawamoto

1967年山口県生まれ。高校卒業後、産業廃棄物処理の日雇い労働をしていたが、一念発起して受験勉強を始め、28歳の時に山口大学医学部に入学。34歳で眼科医となり、44歳で眼科クリニック・かわもと眼科の院長となる。専門は角膜。2021年に北九州市立大学ビジネススクールでMBAを取得。現在は眼科専門医としての傍ら、北九州市立大学大学院で医療と認知心理学とを掛け合わせた学際的な研究を行っている。現在の研究テーマは「医療現『場』の行動経済学」と「医師と患者の認知心理学」。

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