3つ目は医師に対するインセンティブの問題だ。提供施設にはJOTから脳死臓器提供管理料として60~70万円が支払われるが、脳死判定を行った医師や、集中治療医などに支払われることはない。この点に関して、技術料などの必要性を感じている医師もいる。
以上、3つの問題を克服していくのは難しい面もあるが、厚生労働省や学会などはこれらの問題を解決すべく、動いているのも事実だ。
例えば、厚生労働省では現在、臓器提供の意思表示が確認できた人の場合、脳死下でも転院搬送ができるよう議論を進めている。
これが可能となれば、前述したような「運ばれた先によって、臓器提供の意思があっても提供できない」といったことが減る可能性がある。医療者への負担を減らすため、コーディネーターにつながる前に家族に寄り添うメディエーターという専門職もつくられた。
「提供施設の連携」という新しい取り組み
さらに新しい取り組みが始まっている。提供施設の連携だ。国は予算をつけて臓器提供施設連携体制構築事業を開始した。ドナーが少ない(出したことがない)提供施設を経験豊富な提供施設がサポートすることで、提供体制を充実させるという仕組みだ。連携拠点となる施設は現在、全国に10カ所ある。
2019年から愛知県内の地域連携を主導している藤田医科大学もその1つ。提供と移植の両方に力を注ぐ同院では、2012年に病院内に臓器移植センターを設置し、移植医や脳神経外科医、救命救急医、集中治療医、薬剤師、検査技師、移植コーディネーターなど、40人ほどの多職種チームで臓器提供・臓器移植に取り組む。これまでに15件の脳死ドナーと、250件の心停止ドナーを出している。アジア全体からみても多い。
同センターの設置に動いたのが、臓器移植科教授の剣持敬さんだ。提供や移植にかかわる医師や看護師など、まわりに声をかけてまわったという。
「設置前は提供側である医師らの協力は難しいと感じていましたが、今は救急医学会でも終末期医療の1つに臓器提供があると話し始めていることもあり、提供側の医師の意識がだいぶ変わってきたように思います」(剣持さん)
提供施設は、あいち小児保健医療総合センター、西知多総合病院、トヨタ記念病院など6施設。提供施設でありながら、1例もドナーを出したことのない施設もあったという。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら