なぜ巨費でも米国へ?「臓器移植」日本で進まぬ訳 1歳女児の心臓移植では5億3000万円の募金

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それは臓器移植法が施行されて25年経つ日本では、ドナーの数が年間100例あまりと増えていないからだ。

年間、わが国では110万人が事故や病気で亡くなり、その1%弱、つまり1万人程度が脳死の状態になると推定されている。厚生労働省の資料「脳死下での臓器提供事例に係る検証会議 500例の検証のまとめ」では、脳死の原因(原疾患)には、くも膜下出血、脳出血、脳梗塞、低酸素脳症、頭部外傷などが挙げられている。いずれもいつ自分に降りかかってきてもおかしくない病気だ。

一方、健康保険証や運転免許証などで提供の意思表示をしている人の数は、全体の1割程度といわれる。脳死とされうる状態になる人が年間1万人で、提供の意思表示をしている人が1割だとすると、単純計算で年間1000人のドナーがいることになる。

実際、「年1000件のドナーが見つかれば、待機中の死亡はなくなります」と江川さんは言う。だが、実際はそうはいっていない。

臓器の提供を決断するのは「家族」

その原因の1つ目は、臓器提供を行う施設の体制が挙げられる。それを理解するために、まずは臓器提供がどのような流れで行われるのかを見ていきたい。

ドナーの対象となるのは、事故や病気などで救命救急センターに搬送され、最善の治療を施しても助かる見込みがなく、“脳死とされうる状態”と主治医が診断したケースだ。

主治医らから家族へ、病状説明とともに臓器提供に関する情報提供があり、それを聞いた家族から「臓器移植について話を聞きたい」と申し出があるなどすると、主治医らがJOTに連絡。臓器移植コーディネーターが派遣される。家族はそのコーディネーターから提供について詳しい話を聞くことになる。

臓器の提供を家族が決めると、法律に基づいた脳死判定が2回行われる(1回目と2回目は6時間以上、6歳未満は24時間以上、間を空ける)。脳死判定は移植とは無関係で経験と知識のある医師2人が担当する。家族が立ち合うことも可能で、2回目の脳死判定が終わった時間が死亡時刻となる。

コンピューターによって条件に合致した移植者が選ばれた後、すみやかに摘出手術が行われ、提供された臓器は移植者のもとに運ばれて移植手術が行われる。提供者の体はきれいに縫合されて、角膜(眼球)の移植では義眼が入った状態で家族の元に戻ってくる。家族が判断すれば、途中で提供をやめることも可能で、その場合も不利益な扱いを受けることはない。

ただし、臓器を提供するドナー側の医療機関(以下、提供施設)はどこでもよいわけではない。現在は大学病院や日本救急医学会の指導医指定病院、救命救急センター認定施設など「5類型」とよばれる施設に限られる。

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