提供施設は、2021年1月時点で全国に891施設あるが、厚生労働省の調査によると、全体の51%にあたる455施設で提供体制が整っておらず、17%の148施設で提供体制が限定的としている。提供体制ができているのは288施設、32%にすぎない。
なぜ体制が整っている施設が少ないのか、江川さんはこう説明する。
「実際は5類型といっても、脳神経外科の医師が数人でやっているような中規模の病院も少なくない。次から次へと重症の患者さんが運ばれてくるような施設で、家族と向き合って丁寧な説明をするのは、時間的にも体力的にも大変であることは事実。ものすごいエネルギーが必要です。提供に関して積極的な気持ちがあったとしても難しい」
提供病院は臓器移植をする際、家族への説明をするだけでなく、脳死状態となった人をICU(集中治療室)で管理し、摘出手術のために手術室を確保する必要がある。集中治療医や麻酔科医、外科医などの医師や、脳死の検査に携わる検査技師、看護師などコメディカルの協力も不可欠だ。また倫理委員会を設けて、都度、承認を得なければならない。
そういった時間的、人的な余裕がない中規模の救急病院が提供施設となっているのは、現実的ではないということだ。江川さんが続ける。
「コロナのときもそうですが、結局、負荷がかかるのは中規模の医療機関です。そういうところに重症の患者さんが運ばれた場合、脳死とされうる状態となって、かつ、患者さんがドナーカードなどで意思表示をしているなど、本人の希望があったとしても、臓器の提供はできない、ということになります」
目の前の患者の臓器を提供=負け?
2つ目の原因として、今回の取材で聞こえてきたのは、医師の意識の問題だ。提供に携わるのは主に、脳神経外科医や救命救急医。救命救急の最前線にいて重症患者を助けることを使命とする者にとって、目の前の患者の臓器を提供するというのは「負け」を意味し、自分の仕事ではないと考えている、というのだ。
ただし、これについては施設によってかなり異なる。これまでに20例ほど脳死ドナーを出している、日本でも有数の提供施設である東京医科大学八王子医療センターの池田千絵さん(認定レシピエント移植コーディネーター)は、「当院の救急救命医のスタンスは、患者さんの権利を守る、なんです」と話す。
「がんで亡くなる患者さんに緩和医療があるように、亡くなり方の1つとして臓器提供があるので、提供に疑問を持つことや、大変と思っている医師はいないと思います。私たち移植チームも手伝えるところは手伝っています」
池田さんらは毎年、一般の人たちに臓器移植に興味を持ってもらうよう、活動を行っている。知ってもらうこと、考えてもらうことが第一歩と考えているからだ。
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