32歳がんで逝った母親が双子娘に遺した生き様 告げられた病名はステージ4の「スキルス胃がん」

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病室に戻ったみどりさんは、こうめいさんに向かってまた「ごめんね」と言った。病気になってしまって、申し訳ない。そんなふうに言いたいように見えた。

そのあと、みどりさんは、落ち着かない様子で、病室の中を歩き回った。2、3分だろうか。歩きながら、どこを見るでもなく、「どうして私なんだろう」、「これからどうしよう」、「なんでだろう」とつぶやいていた。突然のがん告知の衝撃に、気持ちが整理できていない様子だった。ベッドに座り込むと、しばらく言葉は出てこなかった。

やがて、もっちゃん、こっちゃんがやってきた。みどりさんは2人に笑顔を向けた。でも、表情はいつもよりも硬かった。

ステージ4の胃がんの治療

みどりさんの痛みは入院後も続いた。眠っていても、一晩につき2回くらいは痛みで目を覚ました。胃からの出血もじわじわと続いているとみられた。

ステージ4の胃がんの場合、一般的には、抗がん剤によって治療することが選択肢になる。しかし医師は家族に、みどりさんの状態が悪いため、「抗がん剤治療も負担が大きく、おすすめできません」と話していた。そして、「小さなお子さんもいるので、体調を整えたうえで退院し、ご自宅で過ごされるようにしてはどうですか」と提案した。積極的な治療はしない、という趣旨だった。

たかこさんとえつこさんは、医師の提案に納得できなかった。たとえ病気が治ることはかなわなくても、みどりさんになんとかして治療を受けてほしかった。

かわいい姪が、大事な娘が、ただ自宅に戻って、死が来るのを待って過ごす。そんなことは受け入れられなかった。「みーちゃんの心が壊れてしまう」。えつこさんは思った。

たかこさんは、みどりさんががんかもしれないと事前に考えてはいた。この若さでがんだとしたら、最悪の場合は膵臓がんか、スキルス胃がんかもしれない。結果は、想定していた中での最悪のケースだった。

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