22年ヒットドラマに共通する「信用」という法則 「鎌倉殿」「silent」「エルピス」なぜウケた?

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事前のインタビューで、脚本家の渡辺あやはこう言っていた。

「政治への批判というよりむしろ、例えばテレビ局でぼんやり生きてきた人たちが冤罪事件に危機感を覚えて、これを放送しないといけないと思ったとき、いまの日本の報道システムのどこに問題や障害が出てくるのか、それをどうやったらクリアできるのかというシミュレーションをしたかったんです。

佐野さん(佐野亜裕美プロデューサー)に、例えば、こういうことをやりたいと思ったときに、どこから邪魔がはいると思う? と聞くと、単に政権や官僚への忖度以外の、社内政治とかパワーバランスとかいろんな要素があることがわかって面白くて。

こういったことは、テレビ局にかかわらず、大きな組織のどこにでも起こり得ることだとも感じました」(シネマズプラス『6年経って、世の中へ。社会派ドラマ「エルピス」で渡辺あやが描きたかったものとは?』2022年10月24日配信より)

その甲斐あってか、重要な事件に関する忖度の働き具合も再現度がエグい。その忖度はテレビ局に限ったことではなく、どんな組織にもあるし、それはひいては社会全体でもあって、権力と民衆の関わりについて考える物語にもなっている。

SNSウケだけでなく、物語がつくり込まれた3作

おかしいと思ったことや間違っていると思ったことには声をあげるという、当たり前のことができなくなっている世の中で、声をあげていこうとする切実さのある物語だ。一方で、渡辺はすでにどれだけ声をあげても、賛同してくれるのはそもそも問題意識を持った人だという諦念も抱えている。

意識をまだ持っていない、あるいは潜在的に持っている人たちとも作品を通して触れ合おうとしたからなのか、『エルピス』はヒロインの生々しい恋愛にも尺を割く。危険と感じながらも惹かれてしまう恋愛感情。こういうエピソードによって新たな出会いもあるかもしれない。

普通なら忖度して扱わない題材をあえて描くことのみならず、諦めずにさまざまな挑戦を行う。その姿勢に視聴者はついていくのだ。

以上、『鎌倉殿の13人』『silent』『エルピス』の3作はいずれも、脚本、演出、演技とどれも密度のあるものにつくり込んでいる。SNSの反応を意識しすぎて表面的な仕掛けをするのではなく、まず物語をしっかりつくること。さらに視聴者の声に真摯に耳を傾け、すくいとることで、視聴者の信頼を獲得した。

年の暮れにこのような3作が放送されたということで、テレビ業界、まだ捨てたものではない。

木俣 冬 コラムニスト

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きまた ふゆ / Fuyu Kimata

東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。

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