22年ヒットドラマに共通する「信用」という法則 「鎌倉殿」「silent」「エルピス」なぜウケた?

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村瀬健プロデューサーに取材をしたとき、人気の要因について訊いたら、「ひとつは、人の心を丁寧に描いていることでしょうか。(中略)それぞれのシンプルな恋愛感情を真正面から描く――正確にいえば、それだけではないですが、それを多くの人が求めていたのかもしれないですよね」と答えてくれた(女子SPA!【ドラマ『silent』プロデューサーが語る「紬が“青い服”を着ているワケ」】2022年12月1日配信より)。

20代の気鋭の脚本家・生方美久の描くセリフは、現代口語体のように自然で親近感がある。生方はトーク番組『ボクらの時代』(フジテレビ)で、日本語でしか伝わらないニュアンスを大事にしているというようなことを語っていた。

主人公たちの衣装は毎回変えるのではなく、着回しているリアリティー。舞台も東京の渋谷へとつながる私鉄沿線界隈が、おしゃれすぎず、おしゃれじゃなさすぎず、いい塩梅で見やすい。監督・風間太樹の瑞々しい演出、ヒロイン役の川口春奈の純粋さ、相手役の目黒蓮のナイーブな演技も注目された。

いまの若者は映画やドラマを早送りして見るそうで、つくり手はその対策に頭を悩ませているようだが、このドラマは早送りしづらいのではないだろうか。セリフがなく空気感で見せているところが多く、飛ばしたらその空気がわからなくなってしまうから。ただじっと流れる空の雲を見るように眺めるのが心地よいと思うのは、中高年だから?

そう、若者のみならず中高年にも受けていて、その理由は恋愛の普遍性であろう。普遍とは恋愛に限ったことではなく、セリフやロケ地、衣裳、美術、小道具などを細やかにつくり込むものづくりの心もそうだ。

村瀬プロデューサーは前述のインタビューで「ちゃんとつくればちゃんと届く」とも語っていて、確かにいい作品をつくれば、その熱に惹かれて視聴者はきっとついてくる。手触りはふわりとやさしいが、作品で勝負する、実はなかなか骨太なドラマなのである。

“再現度がエグい”切実さのあるドラマ

3:忖度に抗った問題作『エルピス』

実在の事件をもとにしたフィクションで、他局の企画会議では通らなかったという問題作がようやく放送にこぎつけたと注目された『エルピス〜希望、あるいは災い〜』(カンテレ)。

ドラマで使用した安倍晋三氏の映像が、配信では静止画になるなど話題を振りまいた。崖っぷちのアナウンサー(長澤まさみ)とお坊ちゃんディレクター(眞栄田郷敦)が冤罪事件を取材していくと、実は政治家が関わっている事実に行き着く。そのため、テレビ局や警察の動きは鈍い。

冤罪事件の真相を解き明かすことよりも、それをメディア(テレビ局)がどう扱うか、ジャーナリストの矜持を問う作品のように見える(最終回は12月26日)。

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