防衛省の「次期装輪装甲車」決定に見た調達の欠陥 体系的に進められず問題意識なき前例踏襲が続く

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AMVは南アでもバジャーの名前で採用されている
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12月9日、防衛省は96式装甲車の後継である次期装輪装甲車にフィンランド、パトリア社のAMV(Armored Modular Vehicle)を採用したことを発表した。AMV自体は優秀な装甲車で多くの採用国があり、またアフガニスタンなどでの実戦でその性能も証明されている。一方で今回の採用は防衛省、自衛隊の装備調達の問題点も浮き彫りにしている。

そもそも他国では次世代の装甲車輌のポートフォリオを決定して個々の装甲車輌の調達を決めるが、防衛省にはそのようなマスタープランが存在しない。

現在、この次期装輪装甲車のほかにも同じく8輪の共通戦術装輪車、軽装甲機動車の後継である小型装甲車の3つのプログラムが進められているが、体系的に進められていない。

フランスのスコーピオンとは何が違うか

対して外国、例えばフランスでは装甲車輌の包括的な調達計画であるスコーピオン(SCORPION:Synergie du contact renforcée par la polyvalence et l’infovalorisation)が存在する。スコーピオンは仏陸軍参謀本部とDGAが2000年から着手して2億ユーロ(約300億円)の費用をかけて、既存の装甲車輌の役割をどのような後継車輌に割り振るのか、またFELIN先進歩兵システムとVBCI歩兵戦闘車のネットワークシステムとのシステムの統合などが検証されてきた。総予算は60億ユーロ(約7800億円)が見込まれている。

(写真:フランス国防省)
programme-scorpion-equipements(写真:フランス国防省)

既存の最新8輪装甲車、VBCI(APC型520輌、指揮通信型110輌)と、装輪155ミリ自走榴弾砲、カエサルはそのまま使用されるが、そのほかの主要戦闘装甲車輌は新たに開発、調達される6×6装甲偵察車、ジャガー、4×4汎用装甲車VBMR、6×6汎用装甲車で置き換えられる。またルクレール主力戦車の近代化もスコーピオンに含まれている。砲兵システムでは旧式で装軌式のAUF155ミリ自走砲はすべてカエサルで更新される。このため現在の77輌に加えて32輌のカエサルが追加発注される予定だ。

翻って実は日本の防衛省が採用する次期装輪装甲車と共通戦術装輪車はともにほぼ同レベル要求仕様の8輪装甲車である。共通戦術装輪車にはすでに三菱重工業のMAV(Mobile Armored Vehicle)が採用されており、事実、同社は次期装輪装甲車の候補としてMAVを提案していた。

MAV機動装甲車(写真:三菱重工業)

共通戦術装輪車は16式機動戦闘車とともに機動連隊に配備される。より高い脅威に対処する装甲車で、高い生存性が必要とされ、武装も30ミリ機関砲などを搭載する。対して次期装輪装甲車はより脅威度の低い環境で使う装甲車であり、APC(装甲兵員輸送車)のほか、装甲野戦救急車や兵站支援車輌などなどの調達も予定されている。

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