防衛省の「次期装輪装甲車」決定に見た調達の欠陥 体系的に進められず問題意識なき前例踏襲が続く

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また来年度から生産が始まるのに、APC型の武装や概要すら「敵に手の内をさらさないため」と説明を拒んだ。この程度のことは軍事機密でもなんでもない。そんなことは人民解放軍ですら言わないセリフだ。このような過度の秘密主義はこれまた納税者を敵視することにほかならない。10月の危機管理産業展で防衛省は耐地雷ブッシュマスターを展示したが、メーカーや採用している軍隊が普通に公開している車内を非公開にした。これと同じだ。

現代の装甲車はエレクトロニクス、ソフトウェア、すなわちセンサー、RWS、状況把握装置、ナビゲーション、バトルマネジメントシステム、ドローンジャマーなどとの統合が必要であり、価格面でも大きなウェイトを占めている。どのようなシステムを搭載するかも秘密にするのは現代の装甲車輌がどんなものか知らないと告白するに等しい。

infographie-innovation(提供:フランス国防省)

このようなことをしているから防衛省や自衛隊は、本来は何が核心的な機密かを理解できていないのではないかと疑ってしまう。また納税者から見ると、判断材料が提供されないので防衛省調達がブラックボックス化している。

国防ではなく装備の調達自体が目的化

そもそもの問題は防衛省の産業政策と問題意識なき前例踏襲だ。防衛省は装甲車輌メーカーの統廃合を考えていなかった。今回のAMVの採用はせっかく減った装甲車メーカーをまた増やすということになりかねない。現時点では生産メーカーは明らかにされていないが、これまでの経緯を考えれば日立という線が有力だ。その場合でも2社体制が温存されることになる。

わが国ではこの分野に三菱重工、コマツ、日立の3社のメーカーが存在しているがいずれも世界の競合には見劣りする。これらのメーカーの仕事を確保するために毎年少数発注を続けて、調達完了まで30年ほど掛けている。諸外国では5~10年程度だ。これだけ時間をかければ予定数がそろって戦力化できる頃には旧式化している。また少数生産のために量産効果が得られない。コマツの軽装甲機動車は諸外国の同等の装甲車の3倍の調達コストであった。国防ではなく装備の調達自体が目的化している。

たとえば装甲車メーカーを1社に絞って、調達期間を圧縮して戦力化を早め、同時に量産すれば調達コストは下げられる。そうなればメーカーの仕事も増えて、利益も増える。

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