元宝塚トップ「望海風斗」下積み時代の葛藤と転機 全員エリートの中でたどり着いたトップへの道
宝塚の大劇場公演は1カ月以上続くこともあり、作品の高い質を保つためには時に空気を引き締めることも頂点に立つ者の役目だ。ただ、その方法には「楽しむ」ことを忘れない望海さんらしい工夫があった。
「幕が上がったら、来てくれたお客様と誠実に向き合うこと、その日できることを精一杯パフォーマンスすることが私たちの仕事です。でも女性があれだけ揃っている劇団なので、どうしても日々いろいろなことは起こる。みんなの気持ちが全然違うところに散ったまま開演することだけは嫌だったので、バラバラになりそうな時は、私から何か言うようにしていました。
また、1カ月の公演中に中だるみの空気感をなんとなく感じて、そろそろかな、という時には、怒るというより、みんなが楽しいと思ってもらえるイベントをやってみたりしましたね。例えば当時雪組は何回か公演中に節分があったので、その日は必ず私がみんなの(楽屋の)化粧前に豆をまきに行ったり(笑)。ずっと同じ顔ぶれが同じ楽屋で過ごすので、新鮮さを思い出してほしい時には自分から何か空気を変えるように心がけていました」
卒業発表直後にコロナ禍の試練
2020年春、迎えたトップ4年目に最大の試練が訪れる。未知なるウイルスのパンデミック下で、宝塚歌劇団も公演を休止。望海さんはすでに同年秋での退団を発表していたが、一大イベントである卒業公演までのスケジュールも不透明な状況となった。当時生徒たちはどのようにコロナ禍を過ごしていたのか。
「それぞれ自宅で1人で過ごしていたのですが、やはり体は動かしておかなければいけない。宝塚は小さな町なので、ウォーキングしたりすると必ず道で生徒同士がすれ違うんですよ。すごく嬉しいんですが、タカラジェンヌが外でおしゃべりしている、というわけにはいきません。近寄って話すことはできないので遠くから合図して……。あとは生徒がオンラインでヨガやピラティスのレッスンを開催してくれて、その画面越しにみんなの顔を見たりすることが嬉しかったです」
実は望海さんもこの間、得意分野である歌唱の勉強法や楽譜の読み解き方などをまとめた秘伝の“メソッド”を書き上げ、仲間たちに送っていたという。未曾有の事態に直面しながらも、トップとして組の仲間を気にかけることを忘れなかった。
「LINEで連絡を取り合ったりオンラインで下級生の話を聞いているなかで、苦しみを抱えている子が結構いたんです。特にタカラジェンヌはSNSで発信することができないので余計に開かれている部分が少なくて、自分達の存在がなくなってしまうんじゃないか、どうやって今の思いを発信したらいいか分からない、って。
私たちトップはCSチャンネルや雑誌など媒体があるのですが、下級生にはそれがない。みんなで何か発信する方法がないか、劇団の方と相談したりしましたね。今も舞台はいろいろと大変な部分があって、ずっとあの中にいるのは本当につらいだろうなと思うので、後輩たちにはとにかく心も体も元気でいてほしいなといつも願っています」
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