遠藤:村上館長の話を伺っていると、資金やノウハウはなくても、現場に「自由度」さえあれば、現場の知恵で苦境を乗り越えていけると、あらためて感じます。「自由度」はあるのに、「自分たちでは何もできない」と決めつけている人が多い気がします。
村上:昔の私も、周りのせいにしていましたから、偉そうには言えませんね。でも、何か企画する場合、みんなが「いい」と言うアイデアは、たいていダメですね。
遠藤:たとえば、どんなものですか?
村上:以前、巨額を投じてシロクマを主役にしようとした水族館がありました。いかにもコンサルタントとお役人が考えそうな企画だと思ったら、案の定ダメでしたね。
遠藤:どこがダメだったんですか?
村上:人が理解しやすいものは、すでに誰かがやっていて、目新しさがないのです。それだとお客さんの心の琴線に触れませんし、話題になりませんから。
非常識2 水槽の魚を「調理法付き」で展示する
遠藤:もうひとつ、加茂水族館で驚くのは、水槽の魚を「調理法付き」で展示していることですね。
村上:基本的には、地元の庄内で獲れる「海の幸」をたくさん展示しています。アイナメやメバル、ヒラメやマダラとか。
遠藤:都内の居酒屋メニューで出てきそうな魚たちが、「調理法」が書かれた水槽で、とても優雅に泳いでいる。刺身のおろし方や、魚を使った汁物の作り方まで書かれている、そのギャップがユニークですね。
村上:そもそも、ヨソの水族館と同じことをしていても、意味がありませんからね。それに、代々伝わる郷土の食文化でもありますし。
遠藤:確かに、「水族館とは珍しい魚を展示するところ」という先入観を揺さぶるには、居酒屋で見慣れた魚を泳がせるのが「最大の差別化」ですよね。コスト面でも、珍しい深海魚を連れてくる分を、クラゲに投入できますし。
非常識3 館長も「電話当番」をする
遠藤:もうひとつ驚いたのは、新館には館長室がないのですね。
村上:私が「いらねぇー」と言いました。私が離れてひとりになれば、職員みんなの気持ちがわからなくなりますから。ウチは職員の休憩室もないんですよ。
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