「両利きの経営」が一代だけでは終わらない理由 20年以上前から知の探索を唱えた出井伸之氏
冨山:エレキの会社から、デジタルのエレメントとサービスの会社になろうとすると、あれだけ大きな会社だと、やはり10年はかかる。出井さんの代で完成させることは無理ですが、中鉢良治さん、ハワード・ストリンガーさん、平井さんと3代かけてその方向性で歩み続けたことで、ソニーは盛り返したのです。
入山:確かに、今やっていることは出井さんが描いた世界に近いですよね。
冨山:もしかすると、創業者が「もうエレキの時代じゃない」と一言言えば、周りも黙るから、もっと早く変われたかもしれないけれど、そうではなかったので、出井さんは孤独な戦いを強いられた。そのくらい、トランスフォーメーションは大変なのです。
これは文化革命のようなもので、DXの議論では、エレキをいかに小さくするかが勝負になります。テレビ、携帯ステレオがメインストリームだったときに、出井さんはあちこちで、ハードウェアの大量生産では儲からないと明言していたので、反発を買いました。
しかも、エンジニア出身でもない。技術の技の字もわからないのに、何を言っているのだと。でも、こういう話は日本の会社ではすごく多くて。日立の変容も大変でした。
入山:なるほど。両利きの経営には10年はかかることを覚悟せよ、ということですね。
両利きの経営は2代、3代かけるつもりで
冨山:時間がかかるので、2つポイントがあります。まずは、早く手を付けること。土壇場になってからでは、両利きの経営は実現できません。そして、時間かかるので、自分の代で成果が出るという変な欲を持たないこと。
なぜかというと、無理矢理、短距離走で頑張ると、息切れして、変な揺り戻しが起きる。だから2代、3代かけるつもりで取り組んだほうがよいでしょう。
入山:となると、『両利きの経営』を読む経営者へのメッセージは、「自分の代で両利きの経営が完成するとは夢にも思うな」ですね。