「両利きの経営」が一代だけでは終わらない理由 20年以上前から知の探索を唱えた出井伸之氏

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冨山:エレキの会社から、デジタルのエレメントとサービスの会社になろうとすると、あれだけ大きな会社だと、やはり10年はかかる。出井さんの代で完成させることは無理ですが、中鉢良治さん、ハワード・ストリンガーさん、平井さんと3代かけてその方向性で歩み続けたことで、ソニーは盛り返したのです。

入山章栄(いりやま・あきえ)/早稲田大学ビジネススクール教授。1972年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年にピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーを経て、2019年より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。著書に『世界標準の経営理論』などがある(撮影:尾形文繁)

入山:確かに、今やっていることは出井さんが描いた世界に近いですよね。

冨山:もしかすると、創業者が「もうエレキの時代じゃない」と一言言えば、周りも黙るから、もっと早く変われたかもしれないけれど、そうではなかったので、出井さんは孤独な戦いを強いられた。そのくらい、トランスフォーメーションは大変なのです。

これは文化革命のようなもので、DXの議論では、エレキをいかに小さくするかが勝負になります。テレビ、携帯ステレオがメインストリームだったときに、出井さんはあちこちで、ハードウェアの大量生産では儲からないと明言していたので、反発を買いました。

しかも、エンジニア出身でもない。技術の技の字もわからないのに、何を言っているのだと。でも、こういう話は日本の会社ではすごく多くて。日立の変容も大変でした。

入山:なるほど。両利きの経営には10年はかかることを覚悟せよ、ということですね。

両利きの経営は2、3代かけるつもりで

冨山:時間がかかるので、2つポイントがあります。まずは、早く手を付けること。土壇場になってからでは、両利きの経営は実現できません。そして、時間かかるので、自分の代で成果が出るという変な欲を持たないこと。

なぜかというと、無理矢理、短距離走で頑張ると、息切れして、変な揺り戻しが起きる。だから2代、3代かけるつもりで取り組んだほうがよいでしょう。

入山:となると、『両利きの経営』を読む経営者へのメッセージは、「自分の代で両利きの経営が完成するとは夢にも思うな」ですね。

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