「両利きの経営」が一代だけでは終わらない理由 20年以上前から知の探索を唱えた出井伸之氏

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入山:4~5年前に、日経ビジネスで「大人になったアップル 少年のままで抗うソニー」という記事が出て、冨山さんと私のコメントが載ったことがあります。当時は、平井一夫さんがCEOだったのですが、業績不振で、記事が出た後に、社内にいた反平井派から、ぜひ会いたいと食事に誘われました。

私は興味津々で「ソニーらしさって何ですか?」と聞いたら、「エレキに決まっているじゃないか」と返されました。パナソニックと同じで、井深大さんも盛田昭夫さんも、そんなことは一言も言っていませんよね。

冨山和彦(とやま かずひこ)/株式会社経営共創基盤(IGPI)グループ会長。1960年東京都生まれ。東京大学法学部卒業、スタンフォード大学MBA、司法試験合格。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。2007年の解散後、IGPIを設立。2020年10月より現職。著書に『2025年日本経済再生政策』などがある(撮影:尾形文繁)

冨山:ある成長過程でたまたまヒットした商品を変に普遍化してしまうのは、個別事象と普遍的な話の整理がついていないからです。自分の時代に成功しても、30年後にも通用するかというと、おそらくノーです。第2のウォークマンをめざしているようでは、大人になれない。アナログのハードウェア製品をつくっても、今や誰もお金を払ってくれませんから。

入山:当時のソニーでは、金融事業が徐々に儲かり始めていたのですが、エレキ畑の人には、金融やエンタメ出身の社長なども面白くなかったようです。

「デジタル・ドリーム・キッズ」の慧眼

冨山:金融や映画事業が始まったのは、盛田さんがいたときで、彼はむしろそういうものに中立でした。結局、面白いもの、みんながお金を払いたくなるものを追いかけていくのがソニーです。

当時は、アップルは技術力がなくて、中身は全部ソニーの部品だと豪語する人もいましたが、バリュープロポジションがまったく違う。だから、1990年代初頭に出井伸之さんがアップルを買収しようとしたときも、つぶされてしまった。

入山:当時、アップルを買収しようという話は本当にあったのですね。

冨山:そうです。今年6月に出井さんが亡くなったのは残念でした。今、少しずつ再評価されているのはうれしいですね。「デジタル・ドリーム・キッズ」というキャッチフレーズを提唱したのは出井さんですが、明らかに、もうエレキでは飯は食えないと思ったからです。

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