今川義元がPDCA徹底した武将だったという根拠 もしも戦国時代の戦いをビジネス視点で見たら

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戦力=人数の二乗×武器効率

これで計算すると、

織田の戦力=900万(3000の二乗)×武器効率
今川の戦力=6億2500万(2万5000の二乗)×武器効率
→織田は今川よりも69.4倍優れた武器効率がないと対等に戦えない

という結論に至ります。

つまり10倍もの兵力差があると、仮に兵数が多い今川の武器の質が圧倒的に悪く、兵数の少ない織田の武器の質が圧倒的に優れていたとしても、今川の圧倒的な兵数に包囲されてしまえば、織田はまず勝ち目はないわけです。つまり純粋な戦力では今川が負ける要素はほとんどなく、信長は今川とまともにぶつかったら万に一つも勝ち目はありませんでした。

戦もビジネスも戦略と戦術が重要

ここで登場するのが戦略と戦術です。

戦略とは「方向と範囲を定めること」。

たとえば商品開発なら性別や年代など自分たちが狙うべき範囲を決めますし、営業なら地域や業種などといった方向や範囲を決めることで、誰がどこにどういう手を打つか明確にしますが、それと同じです。この戦略が戦い方を大きく左右します。

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次に考えるのが戦術で、戦略によって打ち出された方向と範囲に「ヒト・モノ・金を配備する」ことを言います。ここでの義元は、まず尾張全域という狙うべき範囲があり、そのなかでも攻めるべき方向も決めていました。まず丸根砦、鷲津砦、大高城などといった効率的に侵攻するための順番を決め、そこにしっかりとヒト・モノ・金を配備することで、戦略と戦術をきちんと組み立てて攻め始めたのです。

義元は2万5000もの兵を揃え、しかも本陣に5000の兵を残してPDCAをどうやってしっかり回すかを考え、いざとなれば予備兵を出せる余裕を持って進軍していきました。これは義元がPDCAを高いレベルでこなせる使い手である証明です。

ビジネス戦略やビジネススキルは戦争から見いだされたものも多いのですが、やはり命のかかった極限の環境下での判断や行動はビジネスに活きますし、逆に戦をよく観察するとわれわれが使っているビジネススキルが見つかります。このような視点から歴史を紐解くと、歴史もビジネススキルも、より記憶に残しやすく活用もしやすくなるのではないでしょうか。

(後編に続く、12月4日配信予定)

眞邊 明人 脚本家、演出家

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まなべ あきひと / Akihito Manabe

1968年生まれ。同志社大学文学部卒。大日本印刷、吉本興業を経て独立。独自のコミュニケーションスキルを開発・体系化し、政治家のスピーチ指導や、一部上場企業を中心に年間100本近くのビジネス研修、組織改革プロジェクトに携わる。研修でのビジネスケーススタディを歴史の事象に喩えた話が人気を博す。尊敬する作家は柴田錬三郎。2019年7月には日テレHRアカデミアの理事に就任。また、演出家としてテレビ番組のプロデュースの他、最近では演劇、ロック、ダンス、プロレスを融合した「魔界」の脚本、総合演出をつとめる。

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