ウクライナ戦争でわかる「指導者の個性」の重要性 有力専門家が明らかにした国際政治理論の問題

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国際政治理論の有力な専門家であるデイヴィッド・A・ウェルチは、今回の戦争は「ウラジーミル・プーチン」の戦争にほかならず、彼の世界観や個性を抜きにして説明しえないと論じている(写真:lukjonis/PIXTA)

国際政治の専門家の言うことなどあてにならないという思いを持つ人は多いのではないか。たしかに昨年の今頃ウクライナで戦争が起こると予測していた国際関係専門家はほとんどいない。また、開戦後の戦局についても、ロシアの苦戦ぶりは大方の予想を超えるものだった。毎日大量の情報が報道され、専門家たち(といっても誰が専門家なのかは問題だが)による分析が公開されているが、今後の展開についても彼らの予測はさまざまだ。

しかし学問的訓練をうけた専門家は、特殊な感性を持つ予言者ではない。学問が学問である限りは結論にいたる過程は秘伝ではなく透明な知的手続きでなくてはならない。前提となる条件が同じなら誰が考えても同じ結論がでるようにすることを指向するのが学問というものであろう。一定の知的な手続きによって予想される帰結と現実が異なれば、学問的知見は再点検され更新される。

もし上に述べたとおりなら、正しい予言よりも正しく間違えることのほうが、学問として国際政治研究に求められることなのではないだろうか。

軽視されてきた「指導者の個性」

最新の『アステイオン』97号は、ウクライナ戦争が開戦後半年を経た段階で、それぞれの専門家による再点検のいわば中間報告として読むことができよう。

国際政治理論の有力な専門家であるデイヴィッド・A・ウェルチは、今回の戦争によって明らかになった国際政治理論の問題を簡潔かつ明確に列挙している。ウェルチが最大の問題としているのが、指導者の個性を軽視してきたことだ。

北米で理論的に精緻化されてきた標準的理論は、もっぱら構造、制度、規範といった没人格的な要素に着目して国際政治を説明しようとしてきた。しかしそれによって個人の性格という理論的には捉え所のない要素を、考慮の外に追いやってしまったのではないか。しかし今回の戦争は「ウラジーミル・プーチン」の戦争にほかならず、彼の世界観や個性を抜きにして説明しえないとウェルチは論ずる。

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