ウクライナ戦争でわかる「指導者の個性」の重要性 有力専門家が明らかにした国際政治理論の問題
この点では、ロシアの地域専門家として活発に発言してきた廣瀬陽子も、自身の読み違いをどのように説明するべきかについて誠実に問いかけ検討している。確かに廣瀬の言うように、合理的にロシアの利害を考えれば、今回のロシアの行動は奇妙であり、だからこそ多くの専門家も読み誤った。それを説明するものは、やはりプーチンの世界観や個性なのではないかと廣瀬も語る。
ウェルチはまた、国際政治における経済の役割についても、経済制裁がこれまでのところロシアの行動を大きく制約していないことを指摘している。もちろん中長期的にはどうなるかは判らないにせよ、少なくともエネルギー面では、むしろ制裁発動国の側に大きなコストが生じているようにも見える。
「相互依存の罠」
この点で鈴木一人は、経済的相互依存という構造が、冷戦後の誤った期待や予想によって成立してしまったと説く。それは一旦成立してしまうと簡単には後戻りのできない「罠」のようなものだが、それによって、国家間の紛争がなくなったり緩和されたりというよりも、紛争がより複雑な様相を呈するようになったと指摘する。
また経済学者の竹森俊平は、化石燃料は温暖化問題が強調されたことによって悪者にされてきたが、短期的にはそれに代わるものがないこと、そして化石燃料の供給国であるロシアに大きく依存するという「相互依存の罠」にEU諸国が取り込まれているのが現実だと指摘する。そしてもしEU諸国のエネルギー不足が「正常な民主主義が運営できなくなる限界」に直面すれば、ロシアへの姿勢も変化せざるをえない可能性を示唆する。
経済的な利害関係と国家の対外行動の関係では、いわゆるグローバル・サウスの国々の姿勢が、G7諸国に比べるとはるかに宥和的であることも印象的だ。確かにこれらの国々にとっては、石油や穀物の安定供給といった実利を守ることの優先度が、欧米諸国より高いのは容易に想像できる。
グローバル・サウスの重要なプレーヤーであるインドの姿勢については、マリー・ラルが分析を展開している。インドは戦略的自立性への強い執着があり、対中戦略上もロシアをあまり中国に近づけないことが望ましく、ロシアとはほどほどの関係を保つのが得策と考えて行動しているとする。こういったインドの行動は、ことの是非はともかくインドなりの合理性に基づいたものであり、その意味でなんら意外なことはないということになるのだろう。
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