映画「あちらにいる鬼」監督が引き出す俳優の魅力 幅広い作風で話題を呼ぶ廣木隆一監督に聞く
――「俳優から引き出す」ことを始めたきっかけはあったのでしょうか。
若い頃は俳優が自分の思い通りに動いてくれないと自分の映画にならないと思っていました。その考え方が変わったのは、サンダンス映画祭の奨学金を獲得して映画学校に留学した時です。40すぎた頃のことでした。
監督、カメラマン、編集マン、いろんな人が教えに来てくれましたが、僕らの面倒をみてくれるプロデューサーでもあり、校長先生的な立場の人がいて、ショートフィルムも撮りました。
その先生に「廣木が撮ったものは、廣木のものでしかないから。それが廣木の映画になるんだ」と言われたんです。その時に目から鱗が落ちたというか、腑に落ちました。確かにそうだと。
それで帰国してからは、今まで培ってきた「演技手法」みたいなものは全部捨てて、俳優の中から「引き出す」というスタイルに変えました。自分の頭の中のものではなくて、目の前の相手の中から引き出さないと映画的には弱いと。そうやって今まで撮ってきました。
リアリティーを大事にする
本読みもしないです。リアリティーが大切なのでセットが出来上がった状態で演技をしてもらいます。段取りと呼んでいますが、最初に段取りをして、それからカット割りと芝居を決めます。
劇映画のリアルはドキュメンタリーのリアルとは違います。でも「リアル」を追求したいという思いがありますね。
毎回、このやり方でいける、と感じたことはありません。まだまだですね。毎回、「これでいいの?」と思って取り組んでいます。
――恋愛映画を手がけることの多い廣木監督ですが、男女関係を描く上で心がけていることはあるのでしょうか。
カップルの数だけ異なる人間模様があります。なので「男と女」という枠にはめるのではなく、「このふたりはどんなふたりなのか」ということを考えることが大切なのではないかと。
映画の中でよく「なんで好きになったのかわからない」というセリフが出てきますが、脚本を読んでいる段階から、どうしてこの二人はお互いのことを好きになったのか……。というようなことを徹底的に考えるところから始めないといけない。
自分があらかじめ持っていた漠然としたイメージに頼るのではなく、「この人のこの部分を好きだと受け止める人がいる」というところまで具体的にイメージするようにしています。そうしないとやはりリアルから遠くなってしまう。
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