宗教2世の山上徹也容疑者が抱えた底知れぬ孤独 極端なヒーローの物語が浮上してしまった真因

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かつて社会学者のリチャード・セネットは、コミュニティーや友人関係がその場限りのものとなり、長期的に見届けてくれる人がいなくなりつつある現状に重大な懸念を示した。それは他者が自分の物語に関心を持ち、その人間性に価値を与えてくれるという尊厳の問題に関わるからだ。

山上容疑者に、もし新たな庇護者がいたらと振り返るのはたやすい。それは彼の母親が統一教会ではないものに救われていたらという後知恵に等しいからだ。

とはいえ、彼が開設したツイッターアカウントは事件が起こるまでフォロワーはほとんどおらず、職場以外の人付き合いが希薄だったことを重ね合わせると、彼の孤独感は、庇護者の不在だけでなく、尊厳の不在によっても強まったと考えられる。自分の物語が誰の関心も呼ばなければ、別の物語を創作する必要がある。

壮大かつ極端なヒーローの物語が浮上

結果的に、あまたの物語の可能性の中から、手製の銃によって、自分の家族だけでなく「統一教会に関わる者」すべてを救済しようとする壮大かつ極端なヒーローの物語が浮上した。それによって彼は、誰かの役に立つ自分、つまり社会との接点をかろうじて取り戻すことを夢見た。もちろん彼が現実に計画し、実行したことは公衆の面前での政治家の殺害であり、犯罪者になることでしかなかった。

しかしながら、他者になにがしかのメッセージを伝えるというコミュニケーションの次元から捉えれば、劇場型犯罪も社会的行為のバリエーションなのである。

このことこそが、彼が欲した庇護者と尊厳に見放された末の皮肉な巡り合わせであり、ほかにありえたはずの物語が残響している証拠ではないだろうか。私にはそう思えてならない。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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