宗教2世の山上徹也容疑者が抱えた底知れぬ孤独 極端なヒーローの物語が浮上してしまった真因

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自分の利益を侵害された者が、法の手続きに従った国の機関による救済が期待できない場合に、自力で回復を図ることを「自力救済」という。彼は、統一教会による被害を自力救済の感覚で回復しようと試みたと私は考えている。

少なくとも彼は、めちゃくちゃにされた人生を繰り返し立て直そうとした。だが、どこかの時点で自力救済しかないという信念に支配されるようになった。この場合の自力救済は、統一教会トップや癒着のある有力政治家の殺害を意味していた。ここでも彼は、未遂に終わった自殺と同じく自己犠牲的な言質をジャーナリストへの手紙に残している。後述するが、そこには社会とつながろうとする切実な意志があった。

必要とされた「別の物語」

人は、誰でも自分の物語を紡ぐ。けれども、物語を共有し、肯定的に受け止めてくれる存在が必要だ。と同時に、無防備でいられるシェルター(避難所)が欠かせない。家庭崩壊や家族の機能不全により、通常この2つが危機にさらされる。外部に代わりになる関係性があればよいが、何もなければ自尊心は失われ、立て直しに向かう動機づけは弱まる。

過去数十年で進んだ自己責任論の内面化は、地域社会の空洞化や生活空間の市場化によって「自分でどうにかするしかない」という切迫した意識をもたらしている。このような社会のムードも彼の自力救済の感覚を後押ししたことだろう。

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