「それまでアイドルのライブはまったく見たことがなかったんです。初めてのライブが秋葉原の小さなイベントスペースだったんですけど、出演者のほうがお客さんよりも多くて、まずそれに驚きました」
「地下アイドル」のライブシーンでは、往々にしてこのような「出演者のほうがお客さんより多い」現場に遭遇する。
「厳しい現実」と言ってしまえばそれまでだが、やはりステージに立つ側は、やりきれなさはあるだろう。
「ライブが始まったら『タイガー!ファイヤー!……』ってお客さんが叫んでいて、それにもほんとびっくりして。そのときのことはよく覚えています」
「タイガー!ファイヤー!……」とは、「MIX(ミックス)」と呼ばれる独特な掛け声だ。スタンダードなものから、独自のものまで、現場により数多の「MIX」が存在し、ファンは昂った「推し」への気持ちを「MIXを打つ」と表現する。
初めて見た「地下アイドル」の現実
いまでこそ松山はファンを理解し、その言動や行動に注目していじり倒すエンターテイナーだが、スタートはアイドル文化をまったく知らないただアニソンが好きな女の子だった。
補足すると、「地下アイドル」とは「ライブハウスなどを中心にライブ活動をメインとしたインディーズのアイドル」のことを指す。松山あおいが最初に立った場所は、この地下アイドルのステージだった。
「活動開始してしばらくしたら、急に『今のままじゃ上にあがれないぞ。ももクロだって最初はストリートからだ』って当時の事務所の社長に言われて。素直に『そうなんだ、じゃあストリートから頑張ろう』って思って。それからずっとストリートや店頭でした」
この話を聞いて「ライブハウスで歌わずにストリート?」と違和感を覚えるのは、知らない人間からすれば普通の感覚だろう。
「ストリートでやることにはなんの疑問もなかったですね」と松山も当時を振り返る。「当時は何もないのが当たり前だというのをずっと言われていて。それに、ももクロさんの話も聞いていたし……」
当然、大きなステージを夢見る松山にとっては「ももクロ」という偉大なるアイドルの名を出されれば納得するしかない。兎にも角にも、選択肢がほかにないわけなのだから。
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