マーケティングの暴走憂う「神様」が説く最新理論 フィリップ・コトラーが提唱「人間中心」とは?

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②サービス-ドミナント・ロジック(S-DL)

S-DLはラッシュとバーゴが2004年に提唱した理論であり、無形財であるサービス(コト)や有形財である商品・製品(モノ)をすべて「サービス」として包括的に捉える枠組みである。それ以前のグッズ-ドミナント・ロジック(G-DL)が市場におけるモノの交換中心のロジックだったものを、サービスの交換を中心に組み立て直した新パラダイムともいえる。

G-DLにおいてはモノの「価値」はいくらで売れたか、すなわち交換価値であったが、サービスの価値は顧客の手に渡って使われて初めて生まれるものだというのがS-DLの主張である。またS-DLは関係性を重視し、個別性、価値の共創、ネットワーク的な関係性、エコシステムを射程に入れた論理である。

S-DLにおいてはモノもサービスを提供する媒体のひとつと位置付けられ統合的に扱うことができるのでソフトウェアの売り切りからSaaS提供への転換等を説明するのにも適していた。G-DLにおいてはオペランド資源(従来型の資金・機械・労働といった資源)が重要であったのに対しS-DLにおいてはオペラント資源(ナレッジ・スキルのような資源)がより重要になってきているというのも重要なポイントである。

S-DL自体も進化しており最近ではアクター(事業主体)間のネットワーク的関係性が強調され、アクター間の制度的取り決めを通じたサービスエコシステムこそが価値を生んでいるということが強調されている。アマゾンがサプライヤーに対してあるルールを課すことでアマゾンの壮大なエコシステムが形成されているのである。

さまざまな記録が残り、可視化できるようになった

さて、なぜ今、S-DLなのか。まずはベースとしてサービスが経済に占める割合がどんどん大きくなってきたことがある。また、作り手も先が見えない中、とりあえず市場に出したものをユーザー側が作り手の意図を超えた価値を見出す「共創的価値」の要素が大きくなったこともあろう。

それにも増して最大の要因はこれまでは取引価格と売り上げしか見えなかったが、現在は利用ログなどあらゆる記録が残るようになり、満足度もソーシャルメディアリスニングなどで見えるようになったことが大きいと筆者は考える。またマネタイズするためのビジネスモデルの自由度向上もS-DLを時代が求めた背景だったと思う。何が見えるか(観察・測定・制御できるか)が考え方の枠組みを規定するのである。

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