もう1つの原因は、指導する教員の問題である。既述のように、就職指導は非常に大きな手間と時間がかかる。1回目の就職試験から複数受験が可能となれば、その分、必要とされる指導の量は増加する。多忙な教員がこれを避けたい気持ちはわかる。
しかしながら、働きやすい企業を生徒に選ばせることができたら、社会人へのスタートをもっと安定的かつ強固なものにできる可能性がある。そのために「一人一社制」の撤廃が必要とするYさんの提案は傾聴に値する。
大学等の進学には、多方面から志願者を評価し、志願者に受験機会を複数回用意するという名目で多彩な入試方法と日程を設けているのに、高卒の就職希望者にはその視点は全く考えられていない。職業選択の自由が保障されている中で、成人年齢を18歳に引き下げたにも拘わらず、彼らを全く大人扱いしていない。
就職活動の指導は特殊なだけに、一般教員が担うとなるとその負担感は大きい。大学等の高等教育機関にはキャリアサポートセンター等が置かれ、職員が常駐している。
高校でも、就職支援教員制度がもっと拡大し、就職希望者がいる高校全てに継続的に配置されることが望まれる。そうすることで、「一人多社制」に移行しても指導が可能となり、生徒にとっての確実な相談窓口ができるのではないだろうか。
18歳はもう成人…「在学中の研修NG」ルールの再考を
また、内定した生徒が高校在学中には企業は研修等を行えないという慣例への疑問も述べておきたい。
内定後も指導は続くと先述した。制服採寸や社内報の原稿依頼等が企業から来るからだが、現行のルールでは仕事の研修等を行うことは禁止されている。理由は、「生徒の負担と学業への影響を最小限に抑える」というものだが、これが生徒の働く意欲に悪影響を与えると、Yさんは感じている。
夏休み以降、就職活動を続けた生徒は内定をもらった時点で働く意欲はピークを迎えているが、その後、通常の学校生活が続くと、高まった意欲は低下してしまう。
むしろ、この間、学校公認のアルバイトとして、内定した企業で簡単な仕事を行う、あるいは必要な研修をするなどすれば、働く意欲を保ったまま4月からの社会人生活に入れるのではないだろうかというのが彼の意見だ。
働く意欲を保持するには、内定後の約半年間の無刺激状態は悪影響でしかなく、これが高卒就職者の早期離職の1つの原因との考え方には筆者も賛同する。
大学の一般入試準備のために、1月以降は高校を休む高校生もいる。私立高校では、1月以降を自宅研修と年間計画で定めている学校も少なくない。このような事実は、高校をあたかも「大学予備校」のように生徒も学校も捉えていることを示している。
高校が次の段階への過渡的な存在であるのなら、就職者が次の段階に進む準備として、研修等を1月以降に実施してもおかしくないのではないか。
「生徒の負担と学業への影響を最小限に抑える」という高卒就職者限定の金科玉条が若者の離職率を上げ、進路格差を拡大する要因になっているのならば、改めてこの言葉の意味を再検討するべきである。
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