Yさんは、高卒での就職活動の特例である「一人一社制」も改善すべきだと主張する。
この提案の根拠には、P高校に届いた求人票や実際の就職試験実施日に関する詳細な調査がある。その概要をごく簡単に紹介する。
生徒が真剣に求人票を見始める7月10日頃までに揃う求人票は、例年、1年間に学校に届く求人票全体の5割強程度であり、会社見学が始まる7月中旬までに揃うものでも8割程度である。生徒は限られた求人票から「一人一社制」に従って志望企業を選び、9月に1回目の試験を経て内定を得れば、その後、より働きたいと思える企業の求人が来ても内定企業を辞退できない。
このところ、試験解禁日は9月16日とされているが、この日に試験を行う企業は決して多くない。求人票には「9月16日以降随時」と記載し、試験日を明記しない企業が多い。9月上旬に正式に応募してきた人数を見て、企業の都合で試験日を決めることが通例だ。
このように、実際の試験日は分散しているので、高卒生でも大学生他の就職活動と同様に試験日の重複を避けてスケジュールを作って1回目から複数応募することが、実は可能なのだ。
「現行制度に問題なし」
現在、「一人一社制」を取っていない自治体もごく少数ながらある。2022年度段階で、秋田県と沖縄県、和歌山県、大阪府が、1回目の受験から複数応募を可能にしている。
しかし、これ以外の都道府県は依然として旧来の慣例を固守している。
この制度が、生徒と企業のミスマッチを生む大きな原因と考えたYさんは、県の就職問題検討会議開催前の2月に、県教育長宛てに問題提起と意見書を提出した。その回答は教育長が交代した翌年度に入った4月に届いたが、「現行制度に問題なし」とするものだった。
その根拠として、以前から行われている各学校へのアンケートの結果と、就職問題検討会議に毎年委ねている旨が挙げられていたという。
先に、国の高等学校就職問題検討会議の申し送りを受け、各自治体が作る同種の検討会議でスケジュールが決定されると書いた。どちらにも、高校側の代表として校長が参加するが、それは長い伝統があり、地元企業と強いつながりを持った商業や工業等の専門高校長が選ばれるのが暗黙の了解だ。
就職に強い専門高校は、関係が深い企業との間に、学校指定求人が存在し、企業の要望に沿った生徒を毎年送ることで、両者の利害が一致しており、現行制度に何ら問題を感じていない。むしろ、生徒が複数の内定を得て、学校が行ってほしいと思っている会社の内定を辞退されたら困ることになる。
この伝統校の慣例が、「一人一社制」を維持している都道府県の大きな壁として立ちはだかっているとYさんは考える。国や自治体の就職問題検討会議に、就職に強い伝統的な専門高校だけでなく、毎年、指導に苦しんでいる普通高校や定時制高校などの声が反映されない限り、「一人一社制」の壁は打ち破れないと彼は力説する。
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