「公務員か地銀」が嫌で大学中退した61歳彼の現在 仕事はできたが、「最終学歴:高卒」は今でも…

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中島さんは、その後に起きた不祥事においても矢面に立って対応にあたり、やがて転職……というより、お家騒動によって追い出されてしまったが、この程度で凹むメンタルではなかった。60代となった現在でも、企業の広報として活躍を続けている。

遊びに熱心で、昭和的な働き方が嫌な大学生だったはずが、いつの間にか誰よりも昭和な会社で働き、昭和の遺物と戦い、矢面に何度も立ってきた社会人生となった中島さん。

そんな彼は今、中退したことについてこう話す。

人生とはそもそもどうなるかわからない

「できることならちゃんと卒業すれば良かったとは思うし、子供たちにもそう伝えていました。社会人人生では、条件のいい企業から誘いを受けることもありましたが、そうした企業は大抵は大卒がマスト。『大卒ではない』と告げると『ごめんなさい』と言われました。

もし学歴があれば、もっと有名な企業で働いていたかもしれません。仕事の出来不出来に学歴は関係ないですが、成果を増幅させるには大事な要素。幸い子供たちは大学を卒業してくれたので、良かったです」

中退はしなくてもいい経験だったと思うか尋ねると、「死ぬまで答えは出ない。悩み続けると思う」と中島さん。

「人生とはそもそもどうなるかわからないもの。大学を卒業し、銀行に入った友人たちのなかには、周囲が金融破綻にあった人もたくさんいました。彼らは安定を求めて入社し、狭い世界だけで生きてきたため40代なかばで転職しても使い物にならず……という人も少なくなかったそうです」

中退したが、いろいろな会社でさまざま仕事を経験し、どこででも生きていける力を身につけた……ということなのだろうかと思って尋ねると、中島さんは「そんな大層なものではない」と謙遜する。

「私はただ、人との出会いに恵まれただけなんです。現在も、社員50人程度の企業ですが、縁があって広報として働けている。また、入社して数カ月の間にいくつものメディア露出ができたのですが、それも今までのネットワークのおかげです。こんなにありがたいことはないですよ。本当に、人生は人との縁だと思います。

だからこそ、中退についても『なにが正解かわからないけど、もし自分が保守的な企業に入っても遅かれ早かれドロップアウトしていただろう』『結局、こういう生き方をしていたことだろう』と思うようにしていますね」

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人生は広い海だ。追い風の日も、嵐の日もある。たしかに学歴はエンジンになりうるが、それだけで前に進める訳ではない。

なにを目指すか、自分にとって何が大事か……答えの出ないものだからこそ、自分なりの答えを出そうとすることが大切なのだろう。

筆者には「もし自分が保守的な企業に入っても遅かれ早かれドロップアウトしていた、と思うようにしている」という表現が、中島さんの正直な人柄をなにより表しているように思えた。

本連載では、取材を受けてくださる中退経験(大学中退、高校中退など)のある人を募集しています。応募はこちらのフォームにお願いします。ヤフーニュースなど外部配信サイトでご覧の方は、東洋経済オンラインの本サイトからお願いいたします。
越野 真由香 ライター

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こしの・まゆか / Mayuka Koshino

1992年、神奈川県生まれ。自閉スペクトラム症児を育てるシングルマザー。WEBメディア編集部にて執筆・編集経験を積み、会社員として働きながら執筆中。
 

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