大塚家具の対立、見逃された「3つの視点」 決算書で読み解く父娘それぞれの経営哲学
この後、筆者は、貸借対照表の下から上に目を移してみましたが、この会社には在庫の金額が大きいということがわかりました。会社の在庫は148億円もあったのです。
在庫の金額が大きいのか小さいのかは、同業の他社と比較すれば、よくわかります。
これを見ると、売り上げの水準は、大塚家具がニトリや島忠よりも1ケタ小さいのに対して、在庫の水準はさほど小さくありません。
その理由を推測するに、大塚家具の在庫(家具)は高級品であって、品物に間違いがないので、大切に保管しておき、安易に廃棄処分しようとしないのだと思われます。
このように、大塚勝久氏は「従業員と家具をこよなく愛する人物」であるように思われます。
ところが、会社の売り上げが減少するような局面では、過大な在庫と人員は、会社経営にとって重荷になります。特に、リーマンショックの大赤字のときには、大塚家具に限らず、日本中の会社において緊急対策が求められました。
これは、筆者の推測ですが、2008年にリーマンショックが起きて大赤字を出し、従業員を減らさなければならない状況に直面したときも、大塚勝久氏は従業員を馘首(かくしゅ)する気になれなかったのではないでしょうか。そのため、長女である大塚久美子氏と交代したのではないでしょうか。
それまでの大塚家具の決算書データを見るかぎり、筆者にはそうとしか思えないのです。
日本中で起きている後継者の苦悩
ここで、少し余談をお許しください。立派な家の相続人、立派な会社の後継者というのは、はたから見れば、豊かな財産を引き継ぐので、うらやましく見えるものですが、大抵の場合、引き継いだ本人はけっこう苦労をするものです。
会社の経営について言うと、経営者の後継者になる人は、その経営資源や財産のみならず、「その会社の課題」という重荷をも承継します。日本の経済界では、会社の規模にかかわらず、その中で苦悩する企業経営者は山のようにいます。
たとえば、親が企業経営に成功し、そのため子供は立派に大学を出て、最初は一流会社に入ったものの、親の事業を引き継ぐために、その会社を退職して親元に戻る人は少なくありません。そういう例は、筆者の周辺にもザラにあります。
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