大塚家具の対立、見逃された「3つの視点」 決算書で読み解く父娘それぞれの経営哲学

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しかし、創業者である勝久氏の考えは違いました。

「ウチは、他社のような商売をしているのではない。いい家具をそろえる。そして買い物それ自体を楽しむ。すてきな家具を買いそろえるプロセスが大事なのだ」

「高級マンション、立派な邸宅であっても、家具が見劣りしてしまえばなんにもならない。立派な邸宅に見劣りしない家具を提供するのがウチの強みだ。これは、絶対に他社にはまねできない。ウチの独占市場みたいなものだ」

「それなのに、娘は、そのウチの持ち味を完全に破壊しようとしている」

大塚勝久氏は、そう考えたのかもしれません。

記者会見で、大塚勝久氏は、「彼女を社長にすべきではなかった」と発言しましたが、筆者はそうは思いませんでした。久美子氏が、もう少し融通のきく人ならば、「じゃあ、私は会社を辞めるわ。この会社はお父さんが築いた会社だから、お父さんの好きにすればいいと思う」と言って親の意見を聞き入れたかもしれません。

しかし、筆者は、そういうのがいちばん企業経営者として無責任だと思うのです。自分がまじめに社長をやって、その結果としてたどり着いた確信があるならば、たとえ父親が偉大な経営者であっても、自分の信念を貫くべきなのです。ですから、経営者として責任ある行動をとった久美子社長は、勝久氏と同様、立派な経営者だと思います。

これと類似した光景は日本中にゴマンとあります。このような対立も、大塚家具が有名企業だからこそ、大々的に報じられたにすぎないのです。この2人の人物の、会社の進路をめぐる争いは、27日の株主総会で決着するはずですが、筆者はかたずをのんでその結果を見守っております。

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前川 修満 公認会計士、税理士

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まえかわ おさみつ / Osamitsu Maekawa

1960年金沢市生まれ。公認会計士・税理士。日本証券アナリスト協会検定委員。同志社大学卒。
澁谷工業、KPMG港監査法人(現、あずさ監査法人)を経て、フリーに。2006年にアスト税理士法人を設立。
代表社員に就任し、現在にいたる。日本税務会計学会会員。
著書に『決算書はここだけ読め! 』『危ない会社は一発でわかる』(以上、講談社)などがある。

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