楠木:博士号の取得までには、どれくらいの期間かかったのですか?
長井:63歳の時に博士号を取りました。私の場合、ずっと民芸運動の創始者である柳宗悦(やなぎむねよし)が研究対象でした。博士論文のテーマは修士の時に思いついたもので、当時、柳宗悦の4700通の書簡に全部当たりましたが、そのとき「彼は経営者としても超一流だったのではないか」と気がつき、これをテーマにしました。
楠木:その後に『経営者 柳宗悦』(水声社)という著書も出されてますね。4700通もの書簡って、ホンマに全部読んだのですか?
長井:ホンマに読みました(笑)。
楠木:はじめは上司に言われて始めた勉強だったものが、やってみたら面白くなったわけですね?
長井:柳宗悦と民芸にはまりました。民芸は普段使いの器に美を見出すもので、それは今まで自分にない感覚で、大きな喜びを感じることができました。柳宗悦の考え方、思想、佇まいにしびれましたね。楠木さんが新著『自分が喜ぶように、働けばいい。』で書かれていた「山本リンダ状態(「どうにもとまらない」)」というやつですよ。
「研究を進めて論文発表をしていきたい」
楠木:会社員の異動というと、みんな「出世にどう影響するか」を計算しがちです。でも、行った先でどのようにふるまうかが大事なのですね。
長井:私の場合、1回目の出向で不動産鑑定士の試験に合格したことも、今につながっています。退職後に不動産鑑定士の資格を64歳で取りまして、今は週に4日、不動産鑑定士の仕事をしています。こちらもおもしろいですよ。
それと去年から京都芸術大学大学院で非常勤講師もやっています。通信制の大学で、レポートの添削が中心ですが、いろいろな分野の芸術に触れることができて、非常に刺激的です。民芸研究では今後は「柳宗悦と博覧会」というテーマで研究を進めて、論文発表や情報発信をしていきたいと考えています。
楠木:65歳を越えて、「これをやります」と宣言している人はあまりいないと思います。すばらしいですね。本日は、ありがとうございました。
(構成:久保田正志)
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