習近平は「台湾統一」攻勢を強めても急がない 台湾への武力行使をできない中国の本当の事情

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統一の主体的・客観的条件を説明しよう。これは、2021年5月にも本欄で書いたが(「中国が台湾に武力行使をしない3つの理由」)、その後のロシアのウクライナ侵攻という新状況を踏まえた新バージョンだ。

第1に、軍事力という主体的要因だ。中国は軍艦数や中距離弾道ミサイルの数でアメリカを上回るが、総合的軍事力では依然として大きな開きがある。ロシアがウクライナを侵攻から8カ月経っても制圧できないどころか苦戦していることを考えれば、200キロメートル離れた台湾海峡を渡海して本島攻略に成功するのは極めて難しい。軍事力で解決しようとするなら、米中衝突は核戦争を覚悟する必要があり、米中ともに衝突は望んでいない。

第2は、「統一支持」がわずか3~5%程度にすぎない台湾の民意だ。民意に逆らって武力統一すれば、台湾は戦場化する。武力で抑え込んだとしても、国内に新たな「分裂勢力」を抱えるだけで、統一の「果実」は得られない。

「武力統一」が一党支配を脅かす

第3に、武力行使に対する米欧の反発と制裁は、ウクライナ問題の比ではないだろう。バイデン氏は、中国をロシア以上の「最大の競争相手」(2022国家安全保障戦略)と見做しており、アメリカは武力行使を奇貨として中国を完全に「へこます」制裁を発動するはずだ。

武力行使は、「一帯一路」にもブレーキをかけ、「ゼロコロナ」政策によって陰りが見える経済成長の足を引っ張る。結果的には中国の発展が阻害され、共産党の一党支配の維持という最大のプライオリティーを危機に陥れる恐れがある。武力統一はもちろん、武力行使にとって最も高いハードルは「統治の危機」だ。

米中首脳は2022年11月、インドネシアでの主要20カ国首脳会議(G20)を機に、初の対面首脳会談の可能性を模索している。台湾問題をめぐる米中の隔たりは大きいが、習氏はバイデン氏がこれまでの首脳会談で約束した「アメリカは新冷戦を求めず、台湾独立を支持しない」など「四不一無意」(「4つのノー、1つの意図せず」、①新冷戦を求めない、②中国の体制変更を求めない、③同盟関係の強化を通じて中国に反対することを求めない、④台湾独立を支持しない。「一無意」は「アメリカに中国と衝突する意図はない」)の「言行一致」を要求するはずだ。

今回の20回党大会の習演説を受け、両首脳が台湾問題でどのような発言をするかが、最大の注目点になる。

岡田 充 ジャーナリスト

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おかだ たかし / Takashi Okada

1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。著書に「中国と台湾対立と共存の両岸関係」「米中新冷戦の落とし穴」など。「岡田充の海峡両岸論」を連載中。

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