習近平は「台湾統一」攻勢を強めても急がない 台湾への武力行使をできない中国の本当の事情

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中国に厳しい見方で知られるアメリカの中台関係専門家であるボニー・グレイザー氏は、先述したブリンケン氏の発言などに対し「2022年、2023年というのは単なる臆測にすぎない。無責任な発言だ」と述べ、「2027年までに台湾を侵攻する」というデービッドソン氏の証言にも懐疑的だ。

台湾側の見方も紹介しよう。台湾海軍で軍艦長を務めた経験がある張競・中華戦略学会研究員は、「台湾有事」切迫という「予言」に対し、「客観的証拠や理論的根拠なしに、西側国家が敵対国に仕掛ける『認知作戦』であり、伝統的な宣伝戦と同じ内容で新味はない」とコメントする。

武力行使と武力統一を混同

日本でも「統一のためには武力行使も辞さない姿勢を示した」といった、「武力行使」と「武力統一」を混同し続ける報道もある。その原因は習演説が「平和統一」に続いて、すぐその後に「武力行使の約束を放棄しない」という文言が登場するためだろう。習氏は、「誤解」を承知で敢えてこうした表現を使い、米台への強い警告を示そうとしたのかもしれない。

だが、習氏がこれまで示してきた台湾政策の基本から考えると、「平和統一」戦略を放棄し、「武力統一」を容認したと見てはならない。「武力行使」と「武力統一」は同義ではない。武力行使は威嚇や嫌がらせ、さらには想定外の軍事衝突を含め幅広い意味がある。「武力行使」には「武力統一」も含まれるが、党の公式台湾政策は「平和統一」にある。

それを否定するには、国家発展戦略全体の見直しを含め戦略的転換が必要だ。それが中国式の論理である。

習氏は大会報告で「共産党の使命」として、「2035年までに社会主義現代化を基本的に実現し、今世紀半ばまでに社会主義現代化強国を築く」ことを「戦略方針」として挙げた。台湾統一もまたこの戦略方針の「大局」に従属する任務なのだ。統一のために戦略方針を犠牲にするわけにはいかない。これもまた中国式論理だ。

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