80代の「現代詩人」の詩が若者世代に響く意味 吉増剛造さんの作品に影響を受けた若き音楽家

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吉増さんの作品( ©charm point)
現代詩人の吉増剛造さん(83歳)の詩が、いま若者たちの心を掴んでいる。吉増さんはこれまで旭日小綬章受章や、文化功労者にも選出された。そんな吉増さんによる詩のドローイングとオルタナティブロックバンド空間現代によるライブパフォーマンスのセッションを記録した七里圭監督作品『背 吉増剛造×空間現代』が2022年10月8日(土)から新宿K’s cinemaほか全国順次公開中だ。吉増さんから大きな影響を受けたという若者の1人が、音楽家の君島大空さん(27歳)。君島さんの楽曲はNHKドキュメンタリー番組の主題曲に起用され、ギタリストとして吉澤嘉代子、adieu(上白石萌歌)などのアーティストの楽曲にも参加している。そんな君島さんに吉増さんの詩の魅力や創作活動に与えた影響などについて聞いた。

朗読することによって完成する

――君島さんは、吉増(剛造)さんから創作活動において大きな影響を受けているとのことですが、具体的にはどのようなことなのでしょうか。

中学校卒業間際の頃、図書館に行きふと手に取った本が『吉増剛造詩集』(思潮社)というオムニバス形式の詩集でした。その中の「朝狂って」という作品に大きな衝撃を受けました。こんなナイフみたいな言葉や文章があるのかと。そして、とても映像的であることも鮮烈な印象でした。

大きな影響を受けるきっかけになったのは、吉増さんの朗読です。もう亡くなられてしまった方ですが、ジャズギタリストの高柳昌行さんとチェロ奏者の翠川敬基さんとセッションをして詩を朗読する『死人』(2007)というCDがあるのですが、それにも影響を受けました。

「詩人が自分の声を使うこと」に、僕はとても勇気をもらって。というのも、それまでの自分は曲を作っていましたが、「自分で歌いたい」という欲求がなかったんです。

ところが、吉増さんの作品は吉増さんご自身が、自分の創作物である詩を「自分の声で朗読する」ことによって、それに対して自分自身を落とし込んでいくような感覚がありました。その時点で初めて詩が詩となりうる、未完成な作品が完成に近付いていくという感覚が朗読を聴いた時にあって。そのことにも大きな影響を受けました。

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