ひとつめは、効率を追うことで私たちの判断力が下がる問題です。
たとえば、こんな経験をしたことはないでしょうか?
いくつもの会議を立て続けにこなし、短時間に大量のメールを送ってハイスピードで事務を片づけるうちに時刻はもう夕方。ふと気がついたら、今日中にやるはずだった重要な企画書には着手すらしていなかった――。
このように、短い時間に効率よく複数のタスクを詰め込んだ結果、大事なことに手をつけ忘れてしまったり、無理な依頼を引き受けてしまったりといった問題が起きるケースは珍しくありません。
この現象を、行動科学の世界では「トンネリング」と呼びます。
車を運転しながら音楽を聞き、同時に助手席の人間とも会話し、さらには目の前の通りを歩く知人の姿に気を取られれば、どんなベテランドライバーでも事故を起こす確率は跳ね上がるでしょう。これと同じように、いくつものタスクを効率よくこなすうちに脳の処理能力が限界に達し、適切な選択をする能力が下がってしまう現象がトンネリングです。
効率を追うことでIQが下落する
経済学者のセンディル・ムッライナタンらの研究によれば、トンネリング状態になった人は平均でIQが13ポイントも下落するとのこと。この数値は、人が眠らずに一晩を過ごした際に起きるIQの低下度とほぼ変わりません。
そのため、いったんトンネリングに陥ると、私たちは次の行動を取りやすくなります。
効率を追う人ほどトンネリングにはまって忙しさが増し、そのあとには「受信トレイを空にした」や「友人の頼みに応えた」という刹那的な自己満足だけしか残らず、本当に大事なことにいつまでも集中できません。まさに悪循環です。
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