効率重視で動く人の成果が逆に下がる意外な事情 自己満足で悪循環、判断力と創造性を低下させる

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ひとつめは、効率を追うことで私たちの判断力が下がる問題です。

たとえば、こんな経験をしたことはないでしょうか?

いくつもの会議を立て続けにこなし、短時間に大量のメールを送ってハイスピードで事務を片づけるうちに時刻はもう夕方。ふと気がついたら、今日中にやるはずだった重要な企画書には着手すらしていなかった――。

このように、短い時間に効率よく複数のタスクを詰め込んだ結果、大事なことに手をつけ忘れてしまったり、無理な依頼を引き受けてしまったりといった問題が起きるケースは珍しくありません。

この現象を、行動科学の世界では「トンネリング」と呼びます。

車を運転しながら音楽を聞き、同時に助手席の人間とも会話し、さらには目の前の通りを歩く知人の姿に気を取られれば、どんなベテランドライバーでも事故を起こす確率は跳ね上がるでしょう。これと同じように、いくつものタスクを効率よくこなすうちに脳の処理能力が限界に達し、適切な選択をする能力が下がってしまう現象がトンネリングです。

効率を追うことでIQが下落する

経済学者のセンディル・ムッライナタンらの研究によれば、トンネリング状態になった人は平均でIQが13ポイントも下落するとのこと。この数値は、人が眠らずに一晩を過ごした際に起きるIQの低下度とほぼ変わりません。

そのため、いったんトンネリングに陥ると、私たちは次の行動を取りやすくなります。

○手軽なタスクだけで満足する:マイクロソフトがイギリスで行った調査によると、効率化を重視した労働者の77%がメールの受信箱を空にする作業に多くの時間を費やし、それにもかかわらず「生産的な1日を過ごした」と感じていました。また、オハイオ州立大学などの実験でも、効率性を追求してスピーディにタスクをこなすように指示されたグループは、そうでないグループに比べてタスクの処理量が約22%減っています。
○戦略的な計画が立てられなくなる:時間効率への意識が強くなると、私たちは大きな視点を失いやすく、深く考えずに同僚の頼みを引き受けたり、運動や学習などの長期的なトレーニングをサボりがちになります。そのせいで、トンネリングに陥った人の多くは、目先の課題に追われて忙しさが増し、長い目で見て重要なタスクが手つかずになるのです。

効率を追う人ほどトンネリングにはまって忙しさが増し、そのあとには「受信トレイを空にした」や「友人の頼みに応えた」という刹那的な自己満足だけしか残らず、本当に大事なことにいつまでも集中できません。まさに悪循環です。

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