着物と帯は日本全国の家庭のタンスに合わせて8億点、購買価格で40兆円相当が眠っていると言われています。タンスに眠る着物の多くが、絹でできています。絹という素材は、とても丈夫で長持ちします。絹でできた着物は人間と同じくらい長生きなので、30~40年前に作られた着物は、人間と同じく働き盛りの現役です。
17の目標を掲げ、2030年の達成を目指して世界中で取り組みが進められているSDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)。17ある目標の12番目は「つくる責任、つかう責任」です。世界の人が全て、現代の日本人と同じような生活をした場合は、地球2.8個分の自然資源が必要になるというWWFジャパンの試算があります。食品、衣服、エネルギーなど、私たちはそれだけ地球の資源を使って生きているということです。
衣服の分野ではSDGsに関連して、サステナブルファッションという言葉が新聞等で話題になることが増えてきました。これは衣服が、大変な環境負荷を与えている現状の裏返し。環境省のまとめによると、現在、日本で1日に焼却処分される衣類の量は1300トン、大型トラック130台分にもなります。
日本のアパレル産業で売れ残って処分される服が生産量の半分、という調査もあります。そのためリペアをしたり、不必要に買いすぎないようしたりするなど、サステナブルで地球に優しい服との付き合い方が提案されています。
拙著『世界のビジネスエリートを魅了する 教養としての着物』でも詳しく解説していますが、日本の伝統衣装である着物はまさにサステナブルな衣装であり、服と長く付き合うために必要なことを私たちに教えてくれます。着物を着ることは、つくる責任に目を向け、つかう責任への具体的な行動になります。
眠る着物を着ることで、つかう責任を引き継ぐ
私は24歳で「着物を着たい」と思ったとき、母の着物のタンスを開けました。その時、何十年もタンスの中に眠っていたとは思えないほど、美しく存在感ある着物や帯に一瞬で心を奪われました。
「着物がタンスの肥やしになっている」と言われることもありますが、私にはタンスは宝箱のように見えました。今でも私が着る着物は母や祖母の着物や、ご近所の方から譲られたものがほとんどです。
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