11月のアメリカ中間選挙と世界は大波乱になる?! 空想と妄想に満ちた「政治小説」を作ってみた

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ジョコ大統領はさらにこう続けた。
「いよいよとなったときのロシアは思い切りがいい。知っているかね? 日露戦争に負けたとき、彼らは南満州鉄道を日本に引き渡した。日本は『マンテツ』を維持するためにあれこれと無理を重ねて、その結果が太平洋戦争の敗戦だ。『退却するロシア軍に注意』とはよく言ったものだ。あなたたちもくれぐれも用心するといい」

「その通りにバイデン大統領に伝えます」とサリバンは頭を下げた。
「よろしく頼むよ」とジョコ大統領は言った。「悪いがこのバリ島における最大の見せ場は、米ロ首脳会談の後に行われるロシア・ウクライナ首脳会談だ。世界中のメディアが世紀の会談をキャリーするだろう。悪の総帥と、元コメディアンの英雄が恩讐を越えて握手する。そしておぞましい戦争が終わって、平和が訪れる」

「恐れ入ります」サリバンはそう答えるのが精一杯であった。
「平和の到来を予感して、為替市場ではドル高是正が進んでいる。原油価格も、金利も下がっている。われわれ新興国の経済にとって願ったりかなったりの展開だ。戦争とコロナとインフレが一気に終わるとなると、来年の世界経済は大ブームの到来じゃないかね」

ジョコ大統領の眼には、観光客でごったがえすバリ島の姿が浮かんでいるようであった。

アメリカで「非常事態」が勃発した   

Part4:結

ところがちょうど同じ時間、ホワイトハウスでは大混乱が起きていた。
「アトランタで連続爆弾テロ事件が発生しています!」

12月6日のジョージア州上院決選投票を控えて、白人至上主義者たちによる投票所の破壊工作が行われていた。有権者を恐れさせて投票率を下げ、結果として共和党候補を有利にしようという試みである。アトランタの中心街は、ちょうど「あの1月6日」、連邦議事堂が襲撃されたときと同じように、奇妙な装束の男たちで溢れていた。

ロン・クレイン大統領補佐官が告げた。
「大統領閣下。G20への外遊は取りやめるべきです。今やこの国は『内戦』(Civil War)に陥るか否かの瀬戸際にあります」

「おいおい、物騒なことを言うものじゃない」と、バイデン大統領が言った。「この中間選挙の結果が『南北戦争』(The Civil War)になったのでは、いよいよこの国には救いがないじゃないか」

「一連のテロ事件の背後に居るのは、間違いなく『あの男』です。そして裏にあるのは共和党内の路線対立。マコーネルなどの党執行部は、決戦投票でウォーカー候補をわざと負けさせることにより、トランプ前大統領の責任問題とするつもりです。そうやって党内のMAGA勢力の力を削ごうとしている。それに気づいたトランプが、先手を打ったのでしょう」

「だからと言って、アトランタの投票所を襲うというのは極端すぎないかね?」

「違います。彼の頭にあるのは復讐です。2021年の決選投票で、『自分が応援演説に入ったのに、共和党候補が2人とも負けてしまった』ことで、彼はジョージア州を恨んでいるのです」

「まさか、そんなことを……」

オーバルルームには、大統領補佐官の業務を引き継ぎ中のスーザン・ライスが入ってきた。
「待ってください。大統領はバリ島に行って、G20首脳会議に出席すべきです。そして習近平とプーチンにも会わねばなりません。そうでなければ世界の混乱が続くばかりです」

「そんな余裕はない。1月6日を忘れたのか? ドナルド・トランプは周到な準備をしているはずだ。二の矢、三の矢を用意しているに違いない」
「でも、これはウクライナの戦争を終わらせるチャンスなのですよ? アメリカ大統領が行かなければ、せっかくの機会が失われてしまいます」

国内派のクレイン大統領補佐官と、国際派のライス次期補佐官の応酬はなおも続いた。バイデン大統領は、眼をつぶって両者の応酬に耳を傾けていた。優先すべきはアメリカ国内の安定か、それとも国際秩序の維持なのか。

ややあって、大統領は眼を開けて告げた。
「ロン、連絡を入れてくれ。エアフォースワンの行き先は、バリ島ではなくてアトランタだと。G20に出かけて世界を救う前に、私は『あの男』との戦いに勝たねばならない」

老人は、再び「戦闘モード」に入りつつあるように見えた。

(今回、恒例の競馬予想はお休みです。ご了承ください)。

 

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

かんべえ(吉崎 達彦) 双日総合研究所チーフエコノミスト

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Kanbee

吉崎達彦/1960年富山県生まれ。双日総合研究所チーフエコノミスト。かんべえの名前で親しまれるエコノミストで、米国などを中心とする国際問題研究家でもある。一橋大学卒業後、日商岩井入社。米国ブルッキングス研究所客員研究員や、経済同友会代表幹事秘書・調査役などを経て2004年から現職。日銀第28代総裁の速水優氏の懐刀だったことは知る人ぞ知る事実。エコノミストとして活躍するかたわら、テレビ、ラジオのコメンテーターとしてわかりやすい解説には定評がある。また同氏のブログ「溜池通信」は連載500回を超え、米国や国際政治ウォッチャー、株式ストラテジストなども注目する人気サイト。著書に『溜池通信 いかにもこれが経済』(日本経済新聞出版社)、『アメリカの論理』(新潮新書)など多数。競馬での馬券戦略は、大枚をはたかず、本命から中穴を狙うのが基本。的中率はなかなかのもの。

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