「スーザン、そこに居るんだろう?」
大統領執務室の隣には、小さな書庫とダイニングルームがつながっている。そこにはスーザン・ライス国内政策会議委員長が控えていて、先ほどからの会話を聞いていることをバイデンは知っていた。
「はい、大統領閣下」
ライスがオーバルオフィスに入ってきた。
「聞いていると思うが、ロン・クレインはクリスマス後にはホワイトハウスを去る。彼の仕事は、あなたに引き継いでもらう。良いだろうね?」
「もちろんです」
「この中間選挙が終われば、多くの者が政権を去っていく。ジャネット(・イエレン財務長官)も含めてな。そうなったら後釜を決めるのもひと苦労だ。そのあたりの司令塔も、年明け後にはあなたの仕事となる」
「わかっています。今日の選挙結果で民主党が上院で50議席以上を得られれば、閣僚の承認作業も比較的、順調に進むでしょう」
「それだけではない。中間選挙が終われば、すぐに2024年大統領選挙が始まってしまう。『あの男』も、たぶん年内に出馬宣言をするだろうな」
バイデン大統領の「再出馬」の意思は?
わずかな沈黙が流れてから、ライスが尋ねた。
「大統領。ここで本当のお気持ちを私に聞かせていただけませんか?」
彼女の視線は、正面からバイデン大統領の眼を捉えていた。
「ああ、いい機会だ。あなたには本当のことを言っておこう。2024年に私がどうするつもりなのかを」
バイデンは軽く咳払いをして、話を続けた。
「私はトランプが共和党の候補者にはならないとみている。理由は、特にない。まあ、これは政治家としての勘みたいなものだ」
「でも、もしも彼が出てきたら?」
「そのときは私が出馬する。私なら、彼に勝てるからね。民主党内のほかの者ではたぶん無理だろう。2024年選挙は2020年の繰り返しとなる。しかしそれは私の望むところではない。そしてこの国にとっても、望ましいことではない」
「もしトランプが出ないのなら?」
「そのときはカーマラ・ハリス副大統領の出番だ。彼女には第47代大統領になってもらいたい。この国初の女性大統領にね」
「大丈夫でしょうか?」
「こんなお爺ちゃんが、合衆国大統領を続けるよりはずっといいさ」
バイデンが乾いた声で笑った。
「知ってのとおり、2020年夏に副大統領候補を決めるときに私は迷った。あなたか、それともカーマラかと。最終的な決断に後悔がないとは言わない。だが、今さら引き返すことはできない。勝手な言い方かもしれないが、あなたにも手伝ってもらいたい」
「新しい歴史を作るためです。私も最善を尽くします」とライスは答えた。
「ありがとう。頼むよ。ホワイトハウスのホームページにある通り、これは『バイデン=ハリス政権』なのだ。あなたには私を補佐するとともに、彼女のことも助けてやってほしい。――さて、私はそろそろ休ませてもらうよ」
テレビの画面では、接戦選挙区の情勢をキャスターがなおも語り続けていた。
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