「2000年前」から「一帯一路」を実現していた中国 EU誕生のはるか以前に単一市場が誕生していた
また、活版印刷術の普及により、商業手引書などが多数印刷・共有され、商業慣行の同質性が高まり、それが取引コストの低減やスタンダード化をもたらした。アムステルダムの宗教的寛容性が同質性のある国際商業のプラットフォームを作ったといえる。
イギリスは、17世紀の2度の政治革命を経て、保護貿易政策により自国の海運業を育て、長期の対外戦争に耐えうる財政制度を構築し、産業革命の成功により19世紀半ばには「世界の工場」となり、覇権国家になって以降自由貿易政策に転換したのである。
ヨーロッパの支配から新冷戦へ
第3部「ヨーロッパの支配から新冷戦へ」では、19世紀後半のイギリスの経済覇権、20世紀のアメリカの覇権と21世紀の中国の台頭について書かれている。
19世紀後半の「パクス・ブリタニカ」のイギリスは、工業力ではアメリカ、ドイツの後塵を拝することになるが、世界最大の海運国家で保険や電信の収入も多かった。国際決済の多くは、イギリス製の電信を用いて行われ、決済の1つひとつに多額の手数料(コミッション)収入が入り、イギリス以外の国の取引であっても、イギリス製の電信、船舶、さらには海上保険が用いられ、ロンドンの金融市場で決済された。世界の国々はイギリスのインフラを使うため、世界経済が成長し国際取引が増えることで、イギリスは「胴元」として「自動的に」収入を増加させることができたのである。
現在も、世界のタックスヘイブン(租税回避地)リストの35地域のうち22がイギリスに関係しているが、大英帝国時代の手数料資本主義が甦っているともいえる。
20世紀の2度の世界大戦を経て、世界経済の覇権は移動し「パクス・アメリカーナ」の時代となった。アメリカは、自国の経済力のみならず、自らがつくったIMFや世界銀行などの国際機関を後ろ盾として世界経済の覇権を握り、さらに世界に進出する多国籍企業も動員してプラットフォームを築きあげたのである。
21世紀に入って中国経済の躍進は著しい。ロシアやアフリカ諸国と結びついた「一帯一路」構想とそれを支えるアジアインフラ投資銀行により、アジアに人民元の「手数料」と「物流」のプラットフォームを作ろうとしている。また、制圧した香港を窓口にして、世界のタックスヘイブンの金融市場に介入したり、「一国主義」をとるアメリカに代わって国連機関を援助し自らの後ろ盾にしたりして、世界のプラットフォーマーを視野に入れている。中国は、世界史を再逆転し、21世紀の覇権国家になるだろうか。
本書は、物流を整備し経済ルールを設定したプラットフォーマーたる覇権国家を軸に世界経済史を再構成したものである。現代日本が、「テラ銭」を胴元に貢いでゲームに参加させてもらう側ではなく、「ゲームチェンジャー」になるにはどうすればいいのか。世界史にヒントはあり、本書はその一冊となりうるのである。
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