――ヒロインが愛する人を待つという意味では『初恋のきた道』を思い出しました。そういった女性が男性を待つという物語は、チャン監督の創作意欲をそそるのでしょうか?
実は小さいときに祖母から聞いた物語が印象に残っています。それは「夫を思い続けて、石になってしまった」という妻の話でした。彼女は海辺にいて、夫が帰ってくるのを待ち続けるのです。しかし、結局夫は海難事故にあって戻ってはこない。待ち続けた果てに、妻は石になってしまった。もしかしたらその話が印象に残っていて、待ち続ける女性というモチーフが形を変えて出てきているのかもしれません。待つということは、一種の愛情表現ですから。
中国でも60、70年代の実景を撮るのは難しい
――日本では1960~70年代の街の風景を撮ることは非常に難しく、CG処理をしなければその時代の風景は撮れなくなってきています。この映画を観たときに、街の風景に懐かしさを覚えたのですが、中国ではこのような風景はまだ残っているものなのでしょうか?
いやいや。中国ではもっと大変だと思いますよ。おそらく中国は日本よりも変化が激しいので、少し前の時代の場所を撮りたいと思っていても、今はもう本当に撮れなくなっている。今回の映画は、北京の大きな工場で撮ったんです。この工場は、空気を汚染するという理由から、北京から別の地域に移転することになっていたもので。だからもう人は住んでいなかったのですが、まだ取り壊していない建物が、まだたくさん残されていたんです。こういった景色は、北京に限らず、地方に行ってもなかなか見つからない。これは実に貴重な景色だったというわけです。
――まさに撮るべくして撮ることができた映画というわけですね。
きっとあと20年もすれば、1960、70年代の実景は撮れなくなるでしょう。その時は新しくセットを作るか、全部CGで処理するしかないでしょうね。
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