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膵臓がん告知…30代起業家が半年後に涙した理由 「実存的苦痛」とは?どうやって乗り越えるか

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  • 清水 研 精神科医、医学博士
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この文章を読んでいるあなたが、もし「自分にもいつ死が訪れるかわからない」という感覚を持っていないとすると、あなたが今実感している「生きる意味」は、突然色あせてしまうかもしれません。

さて、診察場面に戻ります。私はAさんの「私はこれからどうしたらよいのでしょうか?」という言葉を受け、次のように語りました。

「私は、Aさんのように今まで描いていた未来がやってこないと実感し、混乱されているたくさんの方とお会いしてきました。その経験からこれから説明しますが、今のAさんには届かないかもしれません。ただ、道のりをお示しするために、あえて伝えておきます」

その内容はこのようなものです。

想定していた将来がやってこない

これからAさんの心が取り組む必要がある課題は、いずれも決して簡単なことではないかもしれませんが、2つあります。

1つめは、想定していた将来がやってこないという喪失と向き合うことです。Aさんは苦労を重ね、5年後には夢がかなっている、というところまでやってきていました。しかし、その夢は病気のためにかなわなくなる可能性が高くなってしまった。

このようなできごとに、「起きてしまったことはしょうがないじゃないか」という具合にきっぱりと気持ちを切り替えられる類まれな人もいますが、多くの方はそう簡単に気持ちが切り替えられないと思います。実際、Aさんも目の前の現実が受け入れがたく、苦しんでおられます。

今までの努力を想うと、その理不尽さに激しい怒りを感じるかもしれませんし、あまりの喪失の大きさに、とめどなく悲しみがあふれるかもしれません。しかし、あまり知られていないのかもしれませんが、実はこのような負の感情は心の傷をいやす役割を果たします。Aさんは今日もだいぶふさぎ込んでおられるように見えます。これは耐えがたい喪失とAさんが向き合っている証拠です。

負の感情は苦しいですが、心がおもむくままに悲しみ、怒る必要があります。なぜなら怒り悲しみ尽くした果てに、やっと「もうくよくよしていてもしょうがない」という気持ちが芽生え、「ならばこれからの時間をどう生きるか?」ということを徐々に考えるようになるからです。

2つめの課題は、これからの生き方を考えることです。

次ページが続きます:
【半年後の春、Aさんの表情は…】

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