軍事・外交の両面でほぼ「詰んだ」プーチン大統領 核を使っても使わなくても国内外で窮地に

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戦場でもロシア軍は、ウクライナ軍の反攻作戦に押されている。火力面でまだウクライナ軍を上回る東部ドネツク州では、ロシア軍が抵抗を続けて激戦となっているが、東部ルガンスク州や南部ヘルソン、ザポリージャ両州ではウクライナ軍が奪還地域を拡大している。

反攻作戦の次の標的であるクリミア半島をめぐっては、すでに一部ロシア部隊がクリミア大橋経由ではなく、南部ザポリージャ州に北上して撤退する動きが出ているという。

ウクライナ軍は反攻作戦開始に当たり、2022年の冬が終わるまでの短期戦で勝利を目指している。本格的な冬を前に、ウクライナの軍事筋は東部を除いて、南部2州やクリミアでは冬季でも攻撃は可能としている。

同時にウクライナ側はロシア軍兵士に投降を呼び掛け、銃を置かせる作戦を展開している。作戦は「私は生きたい」と名付けられ、ロシア軍兵士の動揺を誘っている。前線の兵士のみならず、「部分的動員」で従軍が決まった男性や兵士の家族からもホットラインに電話が来ているという。

このように、プーチン政権は軍事的にも外交的にも打つ手がなくなりつつある。米欧はコーナーに追い詰められた感が濃いプーチン氏が、小型核兵器の使用に踏み切る恐れがあると警戒している。バイデン大統領は2022年10月11日の米CNNテレビとのインタビューで、プーチン氏が「核を使わないと思う」と述べて牽制した。しかしその一方でプーチン氏について「理性的な政治家」と述べて、懐柔も図った。

「キューバ危機」型の収束も難しい

核をめぐるアメリカとロシア間の危機と言えば、1962年のキューバ危機という前例がある。このときは、アメリカとソ連両国指導者がメッセージのやり取りをし、最終的にアメリカがトルコに配備しているミサイルを撤去するという妥協案を提示。これを受け、ソ連がキューバからのミサイル撤去に応じるというギリギリの取引によって戦争を回避した。

今回はアメリカ政府がクレムリンに対し、核使用の場合は極めて強い報復措置を取ると警告している。キューバ危機のような水面下での事態打開の模索が始まっている可能性も否定できない。しかし、当時と比べ、軍事面での両国の力関係がアメリカ優位に大きく傾いている現状を考慮すれば、バイデン政権が何らかの譲歩をする可能性は低いと筆者はみる。

仮に戦術核を使ったとしても、アメリカの強力な反撃によってロシアが敗北に追い込まれるのは確実だろう。その意味で、プーチン政権が軍事的に逆転勝利する可能性はほとんどゼロと言っていい。

一方で、国家存亡の危機時には核を使用するとしてきたプーチン政権が核による行使に踏み切らずに、このまま軍事的に追い込まれ続ければロシア国内で強硬派から批判を受け、権威失墜は避けられないだろう。

プーチン氏は軍事・外交的にほぼ「詰んだ」状態と言える。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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