軍事・外交の両面でほぼ「詰んだ」プーチン大統領 核を使っても使わなくても国内外で窮地に

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一方で、この声明内容はプーチン政権にとって大きな打撃となった。プーチン氏は、ロシアとの交渉のテーブルに着くことを拒否しているウクライナの頭越しに、アメリカなどとの間で交渉による何らかの妥協を狙っているからだ。

インドネシアで2022年11月に開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせて、現地でのアメリカ・ロシア首脳会談の開催にロシアが前向きなのもこのためだ。しかしバイデン大統領は10月11日、会談に否定的な考えを示して冷水を浴びせた。アメリカはこれまでも、「ウクライナの頭越しに同国の運命について第三国と協議することはない」とゼレンスキー政権に約束している。

さらにロシアは、国連でもこれまで以上の孤立を味わうことになった。国連総会(193カ国)が10月12日の緊急特別会合で、ウクライナ東部・南部4州の一方的な併合宣言を「無効」だとする非難決議案を143カ国の賛成で採択した。決議案は欧米諸国や日本などが共同提案したもので、ロシアなど5カ国が反対、中国やインドを含む35カ国が棄権した。

ウクライナへの軍事支援を強めるG7各国

総会決議に法的拘束力はないが、侵攻直後に141カ国が支持したロシア非難決議を上回る賛成票を得たことになる。ウクライナ領土の併合拡大に対する国際社会の反発を印象付けたものだ。

先述したG7声明を受け、G7各国はウクライナへの軍事支援でもこれまでより大きく踏み込んだ。バイデン政権はウクライナへの高性能地対空ミサイルシステム「NASAMS」の供与を急ぐ意向を示した。このシステムはワシントンのホワイトハウス防衛にも使われているものだ。今回のロシアの報復攻撃を受け、ウクライナへの軍事支援の質が一歩高まったことを象徴する。キーウなどにウクライナ軍は航空機を対象とした防空システムを保有しているが、対ミサイル防衛システムはこれまで保有していなかった。

さらにドイツも、ウクライナに防空システム「IRIS-T」4基を供与する方針で、最初の1基をすでに渡したとされる。これまで軍事支援に消極的だったフランスも動き出した。マクロン大統領は2022年10月12日、防空ミサイルシステムを数週間のうちに供与すると明らかにした。供与されるのは短距離対空ミサイル「クロタル」とされている。

さらにすでに18基を供与した自走砲「カエサル」を6基追加すると表明した。北大西洋条約機構(NATO)も今後、ウクライナへの追加軍事支援を決める予定だ。

武器供与以外でも、ウクライナ軍はイギリス特殊部隊(SAS)からさまざまな訓練を受けている。SASは旧ソ連軍以来の兵力消耗型の戦法を続けるロシア軍を圧倒する最新の弾力的な戦術をウクライナ軍にもたらしている。キーウの軍事筋は「事実上のウクライナ軍のNATO加盟が実現している」と指摘している。ウクライナのNATO加盟に反対して侵攻を始めたプーチン氏にとって、皮肉な結果になった。

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