一方、中国の政治的文脈においても「民主」は重視されるため、「台湾の民意」は守るべき対象として「台独分子」とは区別される。ただし中国のレトリックは「台湾の民意は統一を望んでいる」との前提に立つことから、8月に発表した「台湾問題と新時代の中国統一事業」白書においても「外部勢力の干渉とごく少数の台湾独立分裂分子」に対する武力行使は放棄しないと明記した。
そのため民進党が「台湾にある『中華民国』は独立した主権を持つ国家」との立場で現状維持を主張していることからすれば、民進党が政権を担うこと自体が中国の主張する「1つの中国」原則からの逸脱とみなされる。つまり民進党政権が続く限り中国の軍事的圧力が継続すると見込まれており、そのなかで「民意の重視」レトリックが効力を有するのである。
台湾問題めぐる「正しさ」の競争
なぜ中国と欧米の間でこのようなレトリックの確執が高まっているのか。それは台湾問題が東アジア地域における安全保障上の焦点であるだけでなく、米中が自らの正当性を競う主戦場にもなったためであろう。バイデン政権からすれば、民主主義の定着した台湾の自決権を中国から擁護することで「正しいアメリカ」が維持される。
また習近平政権にとっては、国家の核心的利益のなかの核心と言っても過言ではない台湾問題で失敗は許されず、無謬性を保ったまま統一を成し遂げなければならない。両者は台湾問題における自らの「正しさ」を国内外に示し続けることで、軍事・安全保障の緊張を正当化する必要に迫られている。そうした「正しさ」の競争は米中のパワーバランスと連動し、ともすれば、台湾の意思を置き去りにしたまま、冷戦期の政治イデオロギー対立とは異なる次元での大国間の「認識の対立」へと向かっている。
(江藤名保子/地経学研究所上席研究員兼中国グループ・グループ長)
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