アメリカと中国が台湾巡り正当性ぶつけ合う意味 台湾の意思を置き去りに「認識の対立」へと向かう

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アメリカ 中国 台湾 国旗
台湾問題からみる米中の「正しさ」の競争とは(写真:Tak/PIXTA)

8月に断行されたアメリカのナンシー・ペロシ下院議長による台湾訪問をめぐる評価は論者の視座によって大きく異なる。中国の人民解放軍がこれを機に台湾海峡での継続的なプレゼンスを増大したことから、安全保障の観点からはペロシ訪台が中国軍に良い口実を与えたとの批判も多い。

他方で中国の大規模軍事演習は中国軍が2010年代後半から活動を増進してきた一環であり、アメリカ側もトランプ政権時から台湾防衛に軸足をシフトさせてきたと捉えるならば、双方に大きな戦略的転換はなかったともいえる。すなわち今次のペロシ訪台を評価するには、その中長期的な波及効果を含む複合的な評価が必要となる。

こうした問題意識に基づき地経学ブリーフィングでは、本稿を含む4人の専門家による異なる視座からの論考を連載。まず黄偉修氏は台湾の内側を知る立場から、なぜ台湾社会は今次の軍事演習において冷静に対応できたのかを分析し、日本が学ぶべき認知戦への備えを提言した(日本が「中国と台湾の緊張関係」から学ぶべきこと/9月26日配信)。

続く小笠原欣幸氏はペロシ訪台が台湾社会の「統一されたくない意思」に応えた政治的効果を評価しつつ、国際社会の一貫性ある対応がこれからも必要であると主張した(ペロシの台湾訪問が中国を「やりにくく」させた訳/10月3日配信)。中国内政への影響を考察した山口信治氏は、中国の軍事的優越性が示されたものの、同時に台湾統一という目標達成を阻害する要素が浮き彫りになったと結論付けた(中国の台湾政策に行き詰まりが見えて仕方ない訳/10月10日配信)。

以上に続いて本稿では、中国の軍事演習を受けてバイデン大統領が打ち出したレトリックを踏まえ、台湾問題における「自決(self-determination)」と「独立(independence)」の狭間にある米中の戦略的競争を考察する。

国際的な勢力構図の陰影

中国の軍事演習に対する各国の対応において明らかになったのは、中国との距離感に比例した温度差であった。まず厳しい対中批判を明示したのが、主要7カ国(G7)外相と欧州連合(EU)の外交安全保障上級代表による8月3日の共同声明である。これを受け中国側は王毅外相と林芳正外相による外相会談を急遽キャンセルして強い反発を示した。

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