アメリカと中国が台湾巡り正当性ぶつけ合う意味 台湾の意思を置き去りに「認識の対立」へと向かう

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ボレル副委員長はEUが台湾の最大の投資元であり、半導体の安定供給に必須であると台湾の実利的な重要性を強調しており、アメリカに平仄を合わせつつも「台湾擁護」に傾き過ぎない冷静な認識を示していた。

「独立」と「自決」の狭間に
「戦略的あいまいさ」を残すレトリック

こうしたなか、「台湾防衛」論における立脚点として「台湾の未来は台湾の人々が決める」という論法が浮上しつつある。9月15日の欧州議会の決議は、台湾の民主主義体制による社会生活は台湾の人々が決定すべきだと明記した。またバイデン大統領は9月18日にCBSテレビのインタビューに対し、「台湾は独立について自ら判断する。われわれは彼らの独立を奨励するわけではないが、それは彼らが決めることだ」と発言した。

これは台湾の与党・民進党が1999年の「台湾の前途に関する決議文」で掲げた「住民自決(統一か独立かの選択は台湾公民が自己選択する)」論の踏襲に近い。ここで注意すべきことに、「台湾の未来は台湾の人々が決める」というレトリックそのものは――中国は容認しないであろうが――基本的にアメリカの「1つの中国」政策を逸脱するものではない。

もともと1978年の米中共同声明では「中国はただ1つで、台湾は中国の一部であるという中国の立場」について「アメリカは認識(acknowledge)する」に止め、台湾の位置づけを確定しない「戦略的あいまいさ」を残していた。そのため「民意の重視」は、「独立擁護」というよりも民主主義の重視に軸足があり、バイデン政権の掲げる「民主主義対専制」の論理に符合する。

ただし逆説的に見れば、――台湾が近い将来に住民投票を実施するとは考えられないものの――もし住民投票など民主主義を担保する手続きで台湾民衆が「統一」を選択するのであれば、バイデン政権はそれを座視することになるだろう。

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