着物を何気に見る人が気づかない日本文化の深さ 季節やうつろいを大事に、独特の家紋文化も残す

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日本文化を学んでいくと、夏は1年のなかで特別な季節だと気付きます。

日本の伝統家屋も、夏に涼しいように風通しを重視してつくられています。

学生の制服には、冬服と夏服があります。冬服から夏服へ変えるのが6月1日、夏服から再び冬服へ変えるのが10月1日。この冬服と夏服を変えることを「衣更」と呼びます。ですが、冬服は冬だけでなく、秋・冬・春と3シーズン着用します。

着物でもこの衣更の習慣が残っていて、10月から翌年5月までの秋、冬、春の3シーズンは同じものを着ます。そして6月から9月の間は、夏用の着物に変わります。

夏の着物は周りの人に涼しさを届ける

その夏用の着物は微に入り細に入りつくられています。夏に装う着物は透ける織り方をした布や、麻など軽い自然素材などでつくられたものです。また、着物や帯に夏物があるのはもちろん、半衿や帯揚げ、帯締めなど小物類まで身につけるアイテム全て、それぞれに夏物があります。

もっとも、6月1日から、夏の着物を着るというわけではなりません。まずは小さい小物から半衿や帯揚げ、帯締めへ、そして最後は着物へと、グラデーションのように徐々に夏物へ切り替えていくのです。ただ、こういったところに、着物のややこしくも繊細で美しいところを感じます。

夏の陽射しに着物の袖や裾の布が透ける様子や、シャリっとした麻の風合いは、見ている人に涼を届けます。着る人だけでなく、その周りにいる人にも涼を届けるように、夏の着物はつくられているのです。

ただ、近年は温暖化の影響か、これまでの衣更のスケジュールが合わないことが増えてきました。5月や10月でもとても暑い日があります。そのような時は衣更の習慣を頭の片隅に置きながら、5月や10月に単を着たり、9月に麻を着たり、その日にあったものを選ぶ人が増えています。

いちばん大切なことは、ただルールを守るのではなく、自分や周りの人も涼やかに心地よく過ごせるように、臨機応変に対応するという気持ちです。夏着物を着ることで、昔の人たちの心遣いを学んでいるように思います。

フォーマルな着物には、家紋を入れる文化が残っています。現在も冠婚葬祭など正式な場では紋付の着物を着ることがよしとされています。

家紋は直径2センチメートルほどの小さな枠内に表現されるもの。身近な草花や虫、雲や雪など自然のもの、扇子や杵など生活の道具類などが描かれます。しかも、日本の家紋は小さくてシンプル。着物に入れる紋は直径2センチメートル程度で、この範囲におさまるデザインが2万種もあると言われています。

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