半世紀「猪木」を撮影したカメラマンが目撃した物 新日本プロレス旗揚げ直後に薄暗い体育館で激写
私自身は1試合目からニュートラルコーナーの脇でヒザをついて、勝手に写真を撮っていた。初めて至近距離で見たリングのキャンバスは、少し黒みがかったカーキ色だった。
撮影だけでなく、会場でのプロレス観戦自体、これが初体験である。生のプロレスで最も印象的だったのは、レスラーたちが受け身を取った時のリングの音の大きさだった。しかも客席ではなくエプロンサイドで聞いているから、その音に圧倒された。
試合のほうはというと、こちらも目の前で展開されているわけだから迫力満点。レスラーたちの独特な息遣いもテレビで見るよりリアルに伝わってくる。
当日、1階席はそこそこ埋まっていたように思う。ただし、2階席は観客がまばらだった。試合が始まっても、客席は比較的静かだったと記憶している。
それも仕方ないだろう。日本側は柴田勝久、魁勝司(北沢幹之)、木戸修、外国人側はジョン・ドランゴ、イワン・カマロフ、エル・フリオッソ、インカ・ペルアーノなど普通の人にとっては顔も名前も知らないであろうレスラーばかり出てくる。
リングサイドには、私以外に東京スポーツのカメラマンが一人いるだけだった。当然、こちらの存在には気付いているはずだ。しかし、何も言ってこない。私は趣味で写真を撮っているだけだが、そのカメラマンは仕事で東京から取材に来ている。その邪魔をしてはいけないと思い、私のほうからも話しかけなかった。
猪木&豊登が無名の外国人チームと対戦
当日、メインイベントでは豊登とタッグを組んだ猪木がジム・ドランゴ&ザ・ブルックリン・キッドという名もない外国人チームと戦った。
私はリングサイドで写真を撮りながら、持参した2本のフィルムのうち第1試合からセミファイナルまでを1本に収まるようにして、もう1本はメインイベント用に取っておいた。
この頃は、まだ入場の時にテーマ曲が流されるという慣習はなく、無音の中、猪木と豊登が花道を通ってリングに近づいてくる。さすがに有名なレスラーが登場したことで、客席の温度が少し上がったような気がした。
メインの試合が始まると、薄暗い体育館の照明しかないリングサイドにひっついて、猪木にカメラを向けた。
当たり前だが、あのテレビで見ていた〝若獅子〟アントニオ猪木が眼前にいる。この時期、私が最も好きなレスラーが猪木だった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら